24話 side 白雪澄乃



 困ったな。



 あたしは間森さんと別れた後、一人思案していた。



 遊ぶのが苦手そうだったからちょっとアドバイスしたまではよかったのだけど、まさかカラオケに誘われるとは思わなかった。



 それも間森さんと二人ではなく、クラスのみんなと一緒。



 カラオケに行くこと自体だけは、あたしは慣れているので問題はない。



 たくさんの男性とお出かけする過程で、もう数えきれないくらい行っているからだ。



「でも、どうしよう。あたし、歌えないよ」



 不安を口にするのは、あたし自信が本当かどうか確認するため。



 自分の声を聴くと、その不安はしっかりと意識することができた。



 そう、歌えない。



 正確に言えば、間森さん含めクラスのみんなが受け入れてくれるような歌を歌うことができない。



 歌えるレパートリーは、全てお出かけする男性の年齢に沿ったもの。



 今までのカラオケであたしが考えていたのは、あたしはまったく楽しまなくてもともかく相手の方に楽しんでもらうこと。



 そうなるとあたしの年代で一般的な歌よりも、相手方の知っている歌の方が友好的だった。



『懐かしいね』とか『よく知ってるね』という言葉が聞けて、それがきっかけ作りとなれば十分。



 さらに『これ知っていたら、一緒に歌おう』となればもう、一気に距離は詰まっていくきっかけとなった。



 誰かのために新しい事を身に着けるのは好きだから、幅広い年代に合わせるために覚えた歌のレパートリーはかなりの数。



 だけど、そのどれもがあたしの生まれる前とか小さい頃の歌ばかり。



 間森さんたちの前で歌ったら、明らかに変って思われるのは違いない。



 あたし自身は変って思われるのは今までは構わなかったけれど、今、思われるのはまずい。



 間森さんがあたしのせいでクラスから浮くようになってしまったら、今後の事がいろいろと大変になってしまう。



 あの間森さんの事だから、あたしが何か失敗すれば無理やりなフォローするに決まってる。



 あたしと間森さんの今の関係であれば、何の問題もない。



 だけど、学校での間森さんとあたしの関係しか知らなければ異質に見えてしまうのは明らか。



 今まで間森さんはクラスの中心で、対してあたしはクラスのどこにもグループにも入らず一人で淡々と日々を過ごしている。



 さらには、あのお兄ちゃんの噂もあって学校に居場所なんてない。



 そんな感じであるから、明らかに交わる事との無い二人として見られているからだ。



 最近、間森さんと毎日話すようになった時点で、あたしに対する視線が前より増えたのは気が付いている。



 それも、どれも好意的ではない事を考えると、間森さんの横にいることをまだ認められていないということだ。



 学校であたしが原因で間森さんが孤立するのは、本意じゃない。



 別に今の間森さんを、あたしは強引に独占したいわけじゃない。



 だけど今のように表面上の大人を装って不安定なの間森さんを、彼女が望むような本当の大人にして幸せになってもらうためにはあたしが側に居ないとダメ。



 大人になりたいっていう間森さんの夢を、どんな手段を使っても叶えさせることが一番の特別な友達であるあたしの人生の目的だからだ。



 今のあたしの計画はともかく間森さんは表面上ではみんなの知っている間森さんのままで、ゆっくりゆっくり大人の間森さんに変えていくこと。



 そして、そのために間森さんの隣にあたしが居ることを、周囲に認めさせなければいけない。



 下手に急ぎすぎて急激な変化を起こして、間森さんとあたしがクラスで孤立するのは何としても避けなければならない。



 あたしはともかく、学校で孤立していくことに間森さんは耐えられるほど大人じゃない。



 それに、二人で孤立してしまったら、間森さんにあたしに対しての迷いが生まれてしまう。



 せっかく出会えた本物の運命の人を、こんな感じで手放してしまう事だけは避けなければならい。



 色々なことを考えると、今回のカラオケというのはかなりの重要な分岐点。



 この機会を生かせば、あたしが間森さんの隣に居てもいいと周囲に思わせることができるはずだ。



 だけど、どうやってこの機会で周囲に認めてもらうかというのは深く真剣に考えなければならない。



 あたしの性格だし、みんなと一緒に無邪気に盛り上がるなんて無理。



 大人とのお出かけの時も、カラオケでは静かに聞き入って感想を言ったりする方が多かったからだ。



 もちろん年相応の女の子のように盛り上がるのはできないことはないけど、かなり体力と気力を使ってしまう。



 周りの空気を察して先回りをさりげなくしておくくらいの事はたやすいから、まずはそこをきっかけにはできるはず。



 伊達に、あのお兄ちゃんの妹を10年近くやっていたわけではない。



 今回の場所は、カラオケだ。



 あたしはマンガやアニメが好きだから、今の高校生といえる人間にあった年代の主題歌などならそれなりに知っている。



 だけど、最近は大分メジャーになってきたとはいえ、やっぱり垣根はある。



 となるとまずはランキングを調べたほうがいいと思ってスマホでざっと調べてみるけど、アイドル系がそれなりの数を占めていた。



 確かに、みんな知っていそうだけどあたしには無理だ。



 あれは多人数が歌うことを前提としているから、一人で歌うとどうしても無理が出やすい。



 約束は近日中だから短時間で、パートごとの歌い分けまでとなるとかなり難しい。



「帰ったら動画を見て歌えそうなのをピックアップして練習だね。時間はないけど、特別な一番の友達の間森さんのためなら、あたしは何だってできる」



 やる事が決まれば、あとは進むだけだ。



 一つ頷くとあたしはスマホを閉じて、誰も居ない家へと歩き出した。

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