幼馴染ざまぁから始まる闇の百合~あたしと彼女が「シアワセなセカイ」を築くまで~

黒澤ちかう

1話

「はぁ、お前何言ってるか分かってるの? 妹のくせに」


 学校って場所では普段は聞くことが無いような男の子の声が聞こえた。


 聞こえたのは、あたし、間森まもりひなが先生からの用事を終えて、カバンを取りに行った教室からだ。


澄乃すみの……お前さ、妹の分際で俺の彼女になろうとしたの?」


「あの……えっと……あたしは確かにお兄ちゃんの妹だよ。それは、すごい幸せ。でも、あたしは、それ以上の特別になりたいって気持ち……やっぱり、我慢できない」


「お前みたいなのは、俺には本当は邪魔なんだよ」


 邪魔。

 あまりにも重い言葉が、激しい言葉とともに聞こえてあたしの脚は止まってしまう。


 澄乃って名前には聞き覚えがある。


 確かクラスに、白雪澄乃しらゆきすみのさんって女の子がいたはず。


 クラスではいつもぽつんと一人でスマホをいじっていて、誰とも会話してるのを見たことがない。


 ともかく静かで地味で大人しいを通り越して、浮いちゃってる。


 あたしが知っている白雪さんは、そんな子だ。


 もしかして、今こんなひどいことを言われてるのはその子かもしれないと思うと、身体が怒りで震えてしまう。


「それとも何?あいつらみたいにお前もなれるわけ?なれないよな。お前は一生妹なんだよ。お前にはいくらやっても俺の妹までにしかなれないんだよ。それとも何? お前は、俺の他の女みたくなれるって思ってるわけ?」


 どうやら女の子が告白した結果、断われてるみたい。

 だけどそれにしては言葉がきつすぎる。


 男の子の口調も断るっていうより、馬鹿にしたり見下しているみたい。


「え、あの、それは……その……でも、だって……あたしは……」


「はっきり答えられないってことは、そうやって思ってたってことだよな?マジでバカだな。ここまで思ってたとか、どうしようもないわ。お前みたいなのが今まで妹で居れたことがそもそも特別なのも分かんないとか?」


「ち、違う。あたしは、お兄ちゃんの――」


「結局お前は妹で、俺のいいように動いてればそれで幸せだったってこと。言われなきゃわかんないとか、小さい頃から一緒だったけどお前は変わらないな。バカでどうしようもなくってのろまで可愛くも取り柄も何にもないのに、何かできるって思ってる頭おかしいところとか」


 まるで楽しい話をするような口調で、そんな言葉が聞こえてくる。


 ここまでだとなんでそんなこと言うのっていう怒りを越えて、そこまでどうして言えるのって怖くなっちゃうくらい。


「でも、こういう事したってことは、覚悟してるだろうな?妹って立場もなくなったお前がどうなるかってことぐらいわかるだろ」


 そして、いきなり冷たい声に変わった。


 ちょっと待ってよ、いくらなんでもひどすぎない?


 こんなのは、あたしの思う兄妹の遠慮って物を超えてる。


「まぁ、わかるよな澄乃は?俺の側にずっといた妹だもんな。あ、わかってると思うけど、俺がお前にさせてきたこと、誰かにいったらどうなるかも……分かってるよな?」


 言葉は急に優しくなだめるようになっていく。


 でも、前の流れを考えると、優しくなだめるっていうよりも念を押していく感じ。


「お兄ちゃんの幸せを考えるなら、どうすればいい事もお前ならわかってるよな。じゃあな、もう二度と関わるなよ。命令だかんな」


 一方的な言葉が終わってしばらくした後、一人の男子生徒が教室から出ていった。

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