第5話 魔王転職 説明会

 魔王は少々、状況を飲み込めずにいた。

「生き残れない…とは穏やかじゃないなぁ。よもや俺は実力不足だと?」

「いえいえー。逆です逆。あなたここらではちょっと強すぎるんですよ」

「強すぎる?」

「はいー。消費する神聖が多過ぎるとも言えますが」

「神聖?」

 刹那、女は顔をしかめた。また言う必要のない事を伝えてしまったのだろう。しかし文字通り瞬く間に、『警戒の笑顔』の仮面を着けた。

「えっとー簡単に言うと、貴方の存在を維持するのに必要なエネルギーが足りないんですよ、ここ」

 女は笑顔のまま応える。その瞳には少しなら戸惑いが見られた。

「獣も人も、神様でさえ、この世界では何らかを食べないと生きていけないんですよー。例えそれが死神だろうと主神であろうと」

 女の笑顔は変わらない。目線はちっとも変わらない。

「獣は草木や肉。人はそれらを食べた獣。そして神様は、それらを食べた人」

 女の笑顔が少しだけ強張る。目線は先程より強く、一点を見つめる。

「と言っても、他と違って神様は直接人を食べる必要はないんですけどねー…」

 女の笑顔に焦りが見える。目線は変わらない。変わらずに魔王の『背後』を見つめている。

「失礼だな。貴様。話すときは相手の眼を見ろ」

 女は少し目を見開き、しかしすぐに元の表情の仮面を被るといった。

「あなたよりよっぽど目を離せない人がいるんですよねー」

「奇遇だな。俺も貴様など眼中にない」

 ぴくり、女の頬が動く。

「そもそも見ず知らずへの第一声が脅しであったり、言動に教養を感じない。育ちの悪さが目に見えているな」

 女はへぇ、と呟き、拳を構えた。

「試してみますかー?育ちの質」

「そうだな。粗野で下品な育ちを見て」

 魔王の言葉を遮るように女は魔王に拳を叩きつけた。

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