第7話 最終兵器アイス

「あんたはこれを一緒に欲しがるだろうと思ってねえ……別々に食べたり、乗せて食べたりしたいだろうに……」


 フィッフスは手にした容器を逆さにして、鉄板の上に中身を出した。まだ余熱があったはずだが、どうやらフィッフスが触れて深い青に光っている側はいま、冷たくなっている様子だった。一枚の鉄板でありながら、魔法の力で温めも、冷やしもできる。魔法の力とは、本当に便利なものなのだ。

 容器の中身は、牛乳と同じか、それより気持ち黄色見がかった色で、冷たくなった鉄板の上に落ちると、少しだけ形を変えた。白い冷気を立ち上らせながら、しかし、時間と共に少しずつ、その端の方から溶けているようで、鉄板に同じ色の水滴が広がる。あれは……


「アイスクリーム……?」

「……すまない、フィッフス。おれの敗けだ。」


 信じられないことに、あのリディアがあっさりと敗北を口にした。驚愕のあまり、口を開けてしまったシホの前で、フィッフスが勝ち誇ったように笑い声を上げた。


「そうだろう、そうだろうよ。あんたはアイスも好きだからねえ。」

「え、そうなんですか!?」


 あのリディアが、『紅い死神』リディア・クレイが、アイスクリーム好き。

 笑ったら悪い、とは思ったが、これまで見た、予想外のリディアの姿も相まって、シホはやはり吹き出してしまった。リディアはなんとなくばつの悪そうな顔をしながらシホの方を見たが、その顔もなんだか可愛く見えてしまい、シホは笑顔を真顔に戻す方法を忘れてしまった。


「わたしも、アイスクリーム、好きです!」

「……そうか。ホットケーキに乗せて食べても、美味しいぞ。」

「やってみます!」


 シホはお茶を、まだ立ったままの皆の近くに寄せる形でテーブルの上に置き、自身はホットケーキの乗った皿をひとつ、手に取った。一緒に皿に添えられていたフォークも持つと、片手にケーキ、片手にフォークという姿を自分で想像してしまい、なんだかとても食いしん坊な姿に思えた。でも、それでいいと思う。美味しいものを、美味しく食べられるなら、そういう自分がいい。


「じゃあ、今日も……」

「お茶にしよう。」


 言葉の先を取られたので、シホが視線を送ると、シホが淹れたお茶を、リディアがゆっくり、楽しむように口にした。


ーおやつ、焼きます!ーEND

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