第2話 駄女神風との邂逅
腕を伸ばし、眠っていた体を起こす。
「・・・ここは、一体?」
嘉武が目を覚ましたところは光の多く差し込む大聖堂。金髪の女神が嘉武の目覚めを待っていた。
「やっと起きたか、美濃嘉武」
「あ、はい、それでここは一体?」
寝覚めのこともあり、思考がいまいち回らない嘉武。そして女神は言った。
「あなたからすればここは死後の世界。”異世界”とでも言うんでしょうね」
ポカーンとする嘉武。こんなこと、真にありえるのか?と呆然とする。
「ちょっと、話聞いてるの?あなたがそれっぽいこと希望してたからこうして慈悲深い女神である私に拾ってもらったというのに!」
「え、あぁ、ちょっと信じられなくて」
「あなた、生前から戦うことを望んでいたわよね、その心意気を買ったのよ私は!」
「それは、たしかに、そう・・・だったな!」
突然スイッチが入る嘉武。フッフッ、と大げさに笑う。
(来た・・・来たぞ・・・異世界に・・・ッ!!)
目の奥に火が灯る。夢にまで見た異世界。
自分がこの世の主人公、そして理想の自分像を叶えられる滅多にないチャンス。
そう思うと笑みがこぼれてくるのだ。
その間も女神は訝しげに嘉武を眺めている。
転生して、楽に天国に行けないのに喜ぶなんて珍しい人間も居たものだと。
「そうだ、俺を選んだ貴公の目に狂いはないっ!」
「頼むわよ~、私の出世も関係してるんだからね~~!」
「・・・ッフ、お前、俗に言う駄女神だろ?」
クスッと嫌味たらしく笑う嘉武には予備知識がある。それ故駄女神の厄介さは十分理解できている自覚がある。
それ故に駄女神風とやり取りする最中段々と冷静になる嘉武。
「だ、誰が駄目なのよ!私はただの新米女神様よ!!」
「ふ、ふんっ、まぁいいがな・・・」
やや押され気味の嘉武だが、自分がしっかりしていれば良いだけだと自分に言い聞かせる。
「まぁ、新米だけど私は同期の中では主席だったのよ、あんまり見くびらないでもらえる?」
「正直そんなことはどうでもいい、さて俺はこれから異世界へと向かうんだろう?これから何をすれば良いのか教えてくれ」
「そんなこと、って程に言われるのも癪に障るけど嘉武君、あなた異様に物分りが良いわね」
「ある程度は予習済みだ。きっと俺はこれからうんぬんかんぬん・・・」
嘉武は予習済みの異世界知識をひけらかす。
すると、駄女神風は目を輝かせて話を聞いた。
(ラッキーラッキー!何よこの子、当り勇者ってやつ?私のスピード出世間違い無しじゃない!)
駄女神風は自分の行く末を楽観視するクセがある。だがそれは嘉武も同じだった。
「まず第一に扱う魔法は火属性だな、無詠唱はもちろん、初めから魔力に物を言わせ・・・」
変な笑みを浮かべつつ、未だに話し続ける嘉武。終わりがなさそうなので駄女神風が言う。
「なら話は早いわ!サクッとチュートリアルは済ませちゃいましょう!」
「あーでもこーでも・・・ん、まあ少し話足りないが、助かる」
「立ち話ってのもアレじゃない?ほら、お茶出すから座って座って」
ニコニコしながら嘉武に語りかける駄女神風。何もない空間を歪ませ、机と椅子を発現させた。また、初めての魔法に心を躍らせる嘉武であった。
椅子に腰を掛け、駄女神風がティーポットとティーカップセットを先程同様に取り出す。そして、紅茶と思われるものを注いでいる。
「大事なことを聞き忘れていた、単刀直入に聞く」
「今更なに?」
「本当に僕は”最強”になれるのか?」
「そうよ、当たり前じゃない!」
「そうか、実感がなくてな・・・」
「女神の加護がまだ付与されていないからね、その話についてこれからするのよ」
真面目な顔つきで駄女神風が言った。
(駄女神っぽかったけど、何とかなりそうだな。後はさっさと話を終わらせて異世界で冒険をするんだ・・・!!)
そして、二つのカップに紅茶が注がれた。「とくにあやしいものはないから飲んでよ」と紅茶を勧められる。
「では、美濃嘉武君、本題に入るわ・・・」
「あぁ、聞かせてくれ」
それから説明されたことはレベル制が存在すること。いくら最強と言ってもレベル1から始まることは仕方ないらしい。それとステータスが存在する。大まかに分けて体力<HP>、魔力<MP>、力<S>、防御<V>、知力<I>、速さ<A>、命中<D>とあるが、生前のステータスに依存するところが多いが嘉武なら気にすることはない、とのこと。本人の努力次第で後天的にステータスを伸ばすことも可能であるからだ。
そして、特殊能力なども存在するが初めから持っているモノ、これから会得するものがある。
最後に、「お前はもう死んでいる。本当に死んでいる」と嘉武は言われた。簡単に言って、今回における転生とは”死んだ人間が天国へと行く前に一世界救って下さい”ということであり、そもそも一つの世界を救うことは非常に難しいとされている。全然苦労せず天国へ行きたいと言うのが普通の人間である。
そういう風に死の事実を突きつけられてもまだ、嘉武は胸の高鳴りの方が勝っている。またこうして生きているのだから実感がないとも言えるが。
「他に聞きたいことあったら聞いていいわよ」
「十分だ。最強であれば細かいことは気にならないからな」
「さっすがー♪」
話を終え、嘉武は言われるがまま初期アバ装備に袖を通す。異界の服は変に目立つのだ。そして、餞別だと言われ通貨を受け取った。
「じゃあ、短い間だったが世話になったな駄女神風、いつでもいいぜ」
「駄目!?私は主席女神様よ!?」
「ふっ、わかったわかった」
「もぅ、そんなこと言うとバチ当たるわよ?」
「勘弁してくれ、それと早く転送してくれ」
「ま、なんとでも言うが良いわ。それじゃあいくわよ・・・”開けッ!異界の門!”」
駄女神風が紫色の結晶に力を込め、空間が捻れる。
ゲートが空間に広がり、おそらくその先は異世界なのであろう。
「じゃあな、名前も知らない女神様」
そう言って嘉武は片手を挙げながらゲートをくぐって行った。
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