JK2人でちょっくら異世界救世してみよか!
未咲しぐれ
第1話 日常ときどき異世界転生
キーンコーン カーンコーン……。
ざわつく教室に始まりの鐘が鳴った。だるそうに担任の先生が入ってきて、今日の連絡を伝えている。
(今日はなんだか静かだなあ……。小鳥の鳴き声が聞こえてくるなんていつぶりだったっけ)
それもそのはず、今日はある一人の生徒がまだ学校に着いていないようなのである。元気の塊のような彼女はただでさえ個性派ぞろいのこの学校でもとりわけ他の人とは違うオーラをまとっていた。そして幸か不幸か彼女はリュウカと同じクラスになった。
「たのもーっ!!」
突然教室のドアが勢いよく開いて、ピンク色のきれいな髪をなびかせながらやや小さめの女の子が堂々と入ってきた。みんなの注目が一斉に彼女に集まる。そう、この
「……ずいぶん堂々としてるな、楠木」
先生が呆れた様子でティーナに話しかける。
「やだなあ先生、反省するくらいなら初めから遅れてきませんよ?」
なぜかティーナはドヤ顔で先生に話す。相変わらず言っていることがよく分からない。
「遅れてきた理由を聞いてもいいか?」
「道端で草食ってました!!」
教室がざわつき始める。それを聞いていたリュウカは思わず吹き出しそうになってしまう。
「……もういい、席についてくれ。お前と話してるとこっちまでおかしくなりそうだ」
ティーナはこれでいて平常運転だ。いつもこんな調子で予想の斜め上を行く言動、行動が目立つ。要するに彼女は他の人よりちょっぴりおバカでお調子者なのである。
「ティーナ、今日も朝からエンジン全開だな」
リュウカは目の前の席に座ったティーナに嬉しそうに話しかける。
「あ、クッキーおはようっ! ねえ見てた? ティーナの可憐な登場を!」
「見てた、見てたよ」
まるで尻尾を振った犬のようにアピールしてくるティーナに対してリュウカはややめんどくさそうに、それでもどこか楽しそうに話している。そう、これがリュウカにとっての日常。こんな日常がずっと続いていくはずだった……。
* * *
授業が終わったリュウカとティーナはいつも通りゲームセンターかどこかに寄り道しようと歩いていた。
公園の近くを通りかかったところでサッカーをして遊んでいる男女数人の子供たちの姿が目に映った。楽しそうに遊んでいるところをぼんやり眺めていたリュウカは、子供たちの蹴りだしたボールが公園の外を出てちょうど自分たちの歩いている少し前に転がっていくのを見ていた。
「あっ」
思わずリュウカの口から声が漏れた。ボールが道路へと転がっていったためだ。ボールを追いかけて小さな女の子が走ってきている。
───嫌な予感がした。
やばい、やばい! 女の子は無我夢中だ。見たところ向こう側から走ってきているトラックに気付いていない。
「……待ってっ! 止まって!!」
あまりにも咄嗟の出来事だったためリュウカはその場を動けないでいた。その時である。リュウカの隣で同じ光景を見ていた、想像したであろうティーナが突然勢いよく走り出した。
(───ティーナ!?)
もう女の子は道路へ飛び出そうかというところだった。トラックからも飛び出そうとする女の子の存在は確認できそうなものだが、減速する様子はない。それでもティーナはあと少しで女の子に手が届く距離まで追いついた。
……わずかに時を置いた後、女の子の悲鳴が周囲を突き刺した。そこには鮮明な血を流しながら倒れているティーナの姿があった…………。
女の子がトラックへ轢かれそうなその刹那に、ティーナは女の子の体を突き飛ばし、自らを犠牲にして彼女をかばったのだった。その一部始終を見ていたリュウカはその場にへたり込み、鋭く突き刺さる現実という名のナイフを受け止めることができなかった……。
* * *
リュウカは暗い自分の部屋で一人ベッドに寝ころびながら天井を見つめていた。ティーナが死んで一週間……。世界は止まることなく平等に時を刻み続けている。リュウカはティーナがいなくなった後、まるで自身の時計の針が止まってしまったかのように無気力な生活を送っていた。失ってからこそ日々の日常がどれほど素晴らしかったかを実感していた。リュウカの日常は1ピース永遠に欠け続けるパズルのようなものとなった。
「会いたいよ……ティーナ…………」
リュウカの胸の底から溢れた感情が、無意識のうちに微かな声となった。その時である。ふと自身の周りに光の粉のようなものが舞っていることに気付いた。
(…………?)
身を起こして自身の体を確認すると、確かに彼女の周りだけやや明るく部屋を照らしているように感じた。電気を消していたのでより分かりやすく感じられた。現状それ以外に彼女の体に変化は見られなかった。
(……なんだこれ? とうとう幻覚まで見えるようになったのか……?)
疲れているのかと目をこすってみても変わらなかった。それどころか徐々に輝きの強さが増しているような気さえした。そして自身の体が間違いなく光り輝いていると確信したあたりでリュウカはいよいよ尋常ではない事態に直面していると直感した。
(……うっ! …………頭……が……ぁ)
猛烈な光に包まれると同時に頭が沸騰するように熱くなり、リュウカの意識は途切れてしまった。
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