シュイグレンとフォーグレン~王族と神官たちの物語

ありま氷炎

1章 フォーグレンの王女ハルミラと神官リム

1

 

 世界は二つの国が支配していた。

 一つは北の大陸のシュイグレン、もう一つは南の大陸のフォーグレンだった。

 シュイグレンは水の女神を讃える国で、女神の力を借りる男性神官が王に力を貸し、北の大陸を支配している。対するフォーグレンは火の神を讃え、女性神官が神の力を南の大陸を統治する王に貸していた。

 両国は互いの覇権をかけ、何百年も争いを続けており、それはまるで互いが信仰する神の意志のようであった。




「リム。いいでしょ?ね、ちょっとだけ?」

「駄目です。この間降りたばかりでしょう?」


 南の大陸フォーグレン、その大陸を支配する王家の王女ハルミラ。

 南の民の特徴である褐色の肌、波打つ黒い髪は本人の希望により編み込まれており、その華奢な首が襟から覗く。

 年は十六歳。二人の兄にも可愛がられ、少しばかり我儘なところはあるが、王女としては遜色のない娘に育っていた。


 そのハルミアに請われながらも、頑として首を縦に振らないのは護衛を担当している神官リムだ。

 フォーグレンが信仰する火の神を祀る火の神殿。

 火の神が宿る神石を信仰の対象として、女性の神官しか存在しない。火の神が女性以外に火の神石を触れることを許さないため、神官は女性しかなれない。

 神官は火の神石のかけらをつかって、神の力を使う事ができる。

 火を起すのは当然で、空を飛べ、姿を変え、神石を武器に変え、戦うことが可能だ。

 その力は国の武力になり、北との諍いでは兵士の一人として、宮殿では王族を警護する役目を与えられている。

 北のシュイグレンも同様のようで、戦においては神官同士がその神力をぶつけ合うことも少なくなかった。

 両国は長い間戦い続けており、その戦力は拮抗している。

 しかしここ数十年は小康状態が続いており、国境で小競り合いをしている程度だった。


 リムは、神官の中でも神石とつながりの深い家系の出で、エリートともいわれる存在である。若干二十歳で上級神官になり、王女の護衛を務めて三年経つ今は二十三歳。

 王女同様褐色の肌に黒い瞳、髪はそり上げているのだが、元々は黒色をしていた。

 火の神官は皆髪をそり上げており、額には火の神石をいただいた輪っかをつけている。


 彼女は眉を潜め、ハルミラの願いを先ほどから撥ねつけていた。


「駄目といったら駄目です。前回もばれないかとヒヤヒヤしたものですから。見つかったら大神官様に何と言われることやら」


 リムは王ではなく、大神官のことを気にして王女の願いを断る。

 彼女は王女の護衛役として神殿から派遣されているのだが、その行動を諫めることも役割の一つである。それを放棄したとなれば、大神官から大説教を食らうのは当然で、想像しただけで眩暈がしそうだった。


「大丈夫だって。絶対バレないから。ね?お願い?」


 王女が十三歳の年から護衛をしており、リムにとって彼女は仕える主でありながら妹のような存在になっていた。その我儘を聞いてあげたくなるのは、彼女の兄たちとと同じで……。


「わかりました。でも一刻だけですから」


  最後にはとうとう折れて言えば、ハルミラはその大きな黒い瞳を輝かせて喜んでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る