第33話
私は両親と向かい合っている。
ロイドのことはまだ話す予定ではなかった。まずはエドと話し合ってからと思っていたのに、なぜこういうことになったのか。
答えは簡単だ。なぜか兄がロイドを連れて屋敷に戻ってきたからだ。あの時の驚きと言ったら、どういえばいいのだろうか。顎が外れるかと思うほど口を開けてしまったわ。
そして今、兄に呼ばれて両親までもが同じ席にいる。兄の考えが良くわからない。もっと根回しとか必要ではないのかしら。
「娘さんとの結婚を許してください」
ロイドを不思議そうな顔で見ていた両親はロイドの言葉にさらに不思議そうな顔になった。
「きみ、ロイドと言ったか? アネットはもう婚約者もいるのだが?」
「それは…」
ロイドが言葉に詰まってしまったので助け船を出す。
「お父様、そのことなら大丈夫です。婚約は解消することになっていますので」
「な、な、なにを言ってるの? 婚約解消などできるはずがないでしょう。そんなことをすればあなたはどこにも嫁に行けなくなるのよ」
「あら、お母さま。それなら大丈夫です。こうして嫁にもらってくれる方がいますから」
両親の顔は見ものだった。あっけにとられた顔というのは間抜けなものね。
「どうです? こうなったからには二人の結婚を認めては?」
すかさず兄の援護が入る。
「……だ、駄目だ。駄目だ。許さん! アネットはセネット侯爵家の娘だ。子爵家の三男などにやれるか!」
父の怒った声を聴いたのは初めてだった。私が引き取られてから、どこか遠慮した態度だった父の初めての本気の声だった。
「そうねぇ、いくら婚約解消した娘の貰い手が少なくなるとは言え、子爵家の三男はないわね。せめて嫡男なら考える余地はあるけど……」
なんと子爵家の三男というのはそこまで人気がないのか。あんまりではないだろうか。
「二人ともあんまりです。ロイドが子爵家の三男に生まれたのは彼のせいではありません! それを三男だから駄目とか嫡男ならとか酷いです。父さまも母様も嫌いです!」
二人は見事に固まっていた。声も出ないようだ。
私はこの家に引き取られてから、両親に逆らったことはない。ずっと素直な娘を演じていた。それがこの家で上手くやっていく為には絶対に必要なことだと思っていたから我慢したこともある。庶民として育った娘を引き取ったことによって両親が苦労していることもわかっていた。だからそのくらいの我慢は仕方のないことだっていう気持ちもあった。でもこれだけは譲れない。
絶対に譲れないのだ。
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