第32話 ロイドside 2

「別れるってどういうことですか?」


 アネットの話ではヘンリー様は僕たちの見方だと言っていたのに、全く話が違うではないか。でも内心ではやっぱりと思っていた。侯爵家が子爵家の三男との結婚を賛成するはずがないのだ。


「そのままの意味だ。別れてくれるのなら何でも用意しよう。お金でも地位でも望みのままだ」

「こんなことアネットが知れば悲しみますよ」

「アネットに知られなければ問題なかろう。君と会えなくなればしばらくは悲しむだろうが、時が経てば忘れるだろう。君だってそうだ。駆け落ちなんて若気の至りでするものではない。いつか後悔するようなことをする前に私からの提案に乗ったほうが得だと少し考えればわかることだ」


 確かに僕は若い。もしかしたら彼の言うように将来このことを後悔するかもしれない。でもそれは僕がアネットを幸せにできなかった時だ。僕と別れることが彼女の本当の幸せだってどうしてわかる? そんなのは神様にしかわからないことだ。


「金も名誉も彼女の代わりにはなりません。あなたが反対しても僕は諦めません」

「就職先がなくなるかもしれないぞ」

「他を探します。この国で無理なら他国に行っても良い」

「アネットの力をあてにしているのか?」

「僕たちは二人で協力して生活していきますよ。彼女だって僕一人に任せるような人ではないから自分も働くと言うでしょう。でもそれが悪いとは思いませんし、あてにしているわけでもないですよ」


 ヘンリー様は笑った。上品な取り澄ましたような笑いではない。心の底から笑っているようだ。


「君はおかしな奴だな。貴族として育ったとは思えないほどだ。アネットが選んだだけある。先ほどの話君を試しただけだ。悪かった。調べた限りアネットを騙しているようではなかったが、それでも念には念をいれておかないとね」

「えっと…」


 話が見えない。


「合格だということだ。君をアネットの婿としてセネット家の嫡男である私が認めたということだ」


 なにがなんだかわからない。けれど先ほどまでとは違って友好的な表情のヘンリー様を見て僕の方も力を抜くことができた。

 彼に認められたということはアネットとの未来が開けたということだ。もう駆け落ちなんてしなくても良いってことか?

 でもとにかくお礼だけは言っておいたほうがいいよな。


「あ、ありがとうございます」

「まあ、両親を説得できるかどうかは運次第だがな」


 あっ、やっぱりそうですよね。はぁ、一難去ってまた一難かぁ。


「心配するな。私も手を貸してやるから」

「はい、お願いします」

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