第24話 ロイドside

 先日、アネットの婚約パーティーがあったそうだ。

 僕は招かれたが行かなかった。いや正確に言うと行くことができなかった。

 彼女が他の男と婚約したことを認めるパーティーになんて行けるはずがない。アネットはこの一年で輝くように美しくなった。金色の髪は艶をまし、白く透き通ったような肌になった。

 もう僕と一緒に森を歩いていたころのアネットではない。

 あの瞳に映すのは伯爵家の嫡男エドモンド・ルーカス。以前のアンナ侯爵令嬢も彼と婚約していたというのが気になるが、家と家を結ぶための婚約はよくあることだ。

 アネットが本当にこの婚約を嫌っていたら、婚約パーティーなどするはずがない。彼女はそういう人だ。貴族になったからといって、性格まで変わるとは思えない。

 だから、そういうことだ。

 アネットは望んでエドモンドの婚約者になった。

 エドモンドと婚約すれば彼女は安泰だ。ルーカス伯爵家は王族とも仲が良いし、エドモンドは僕とは違って優秀な男だ。きっとアネットを幸せにしてくれる。


 そろそろ諦めなくてはならないということか……。

 アネットのためにも自分のためにも思い出にするのが一番良いのだ。

 今日からアネットを目で追うのはやめる。


 だがこの王都にいれば嫌でもアネットとエドモンドの姿を目にすることになる。


 やっぱり、就職は王都ではない所にしよう。ずっと考えていたことだ。

 アネットのことが気がかりだったけど、それももう終わりだ。僕が助けなくても彼女には守ってくれる婚約者ができたのだ。


 あ~、でも悔しいなぁ。僕の方が先にアネットに会ったのに。アネットは庶民の時だって輝いていたのに。今のような美しさではなく、内面が輝いていたのだと思う。


 アネットは家族のために必死だった。自分が食べることより家族のことばかり考えていた。父親には冷遇されているようだったけど、それでも家族のために働いていた。

 『癒しの魔法』が使えるようになった時も、お金を持っていない冒険者には出世払いで良いと怪我を治してあげていた。踏み倒されることだってあるのに、「まあ、もとは無料だしね」と言って惜しげもなく魔力を使う。冒険者のギルド長が良い人でなかったらどんなことになっていたことか。


 アネットにとって『癒しの魔法』は生活が楽になる魔法でしかなかった。名誉とかそんなものを必要としていなかった。


 今も変わってはいないのだろう。


「聖女様にはならないわ」


 アネットの声が聞こえるわ気がする。

 一緒に歩きたかった彼女はもういない。それでも彼女が幸せになるのならいいのかなと思う。

 いつかまた会うことがあったら懐かしく思い出を語り合えたらいいな。

 今はまだ無理だけれど。





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