第23話

 私が庶民から貴族になって一年になる。

 少しは令嬢らしくなったのではないかと思っている。

 聖女になる話はいまだにあるけど、アンナの婚約者だった男のおかげで何とかなっている。男の名前はエドモンド・ルーカス。庶民となったアンナのことを今でも想っているいる変わり者だ。エドモンドはアンナのために共同経営者になったりして助けていたけど、今はアンナとは会っていない。二年後に迎えに行くとか言ってたけど、一年が経過したけど迎えに行く目処はたっていないようだ。

 私にとってエドモンドは利用価値のある存在に過ぎない。彼にとっても同じだろう。私は彼おかげで聖女になることもなく婚約者を付けられることもなく過ごすことができている。彼も新しい婚約の話を断るのに私を利用しているからお互い様だ。


 でもいつまでもこのままというわけにはいかないようで、最近は両親がうるさく言ってくるようになってきた。婚約パーティーをしなければ収まりそうにない。

 どうすればいいの? 


 あれから話さえできていないロイドは私が婚約したらどう思うかしら。きっと気にすることさえないのでしょうね。

 ロイドは私を目にするといつも背を向けて去っていく。そのことが悲しい。ずっとそう思っていた。

 でも最近はちょっと腹立たしい。何故逃げるの? 私のことがそんなに嫌い?


「おい、アネット。さっきから話しかかているのに返事もなしか?」

「えっ、ああ、エドかぁ。どうしたの?」

「どうしたのって婚約パーティーのことさ。どうする?」

「するしかないわね。まだアンナのこと迎えに行けないのでしょう?」

「ああ、まだ無理だ。ヘンリー様と進めている事業は始めたばかりで、成功するのかどうかさえわかっていない状況だ。この状況で迎えになど行けない」


 それはどうかなって思う。一緒に苦労すれば良いのに。きっとアンナだってただ待つより一緒にいるほうを望むはず。でも余計なお世話なので言わないけどね。


「アネットの方はいいのか? ロイドに話しておいたほうがいいのではないか?」

「私を見ると背を向ける人に話なんてできないわよ」

「……そうか」

「そうよ。でもこのままで済ますつもりはないわ。だってもうすぐ彼は学生ではなくなってしまう。そうなれば今みたいに顔を見ることもできなくなるもの」

「彼の進路はわかるのか?」

「…知らないわ」


 呆れた表情のエド。


「仕方ないでしょ。話さえできていないのに進路なんてわかるわけないでしょ」

「私の方で調べておくよ」


 どうやって調べるのかわからないけど、私の方では調べようがないのだからお願いすることにした。



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