第6話 ヘンリーside

 私、ヘンリー・デュ・セネットには妹が二人いる。

 庶民の妹と貴族の妹だ。

 二人は妖精のい悪戯によって、生まれたばかりの時に入れ替えられていた。そのため十数年という長い間入れ替わったまま育ってしまったのだ。

 つい最近、その悪戯をした本人、いや妖精だから本妖精(?)によって取り換えられていたことが暴露され、二人は元の身分に戻ることになった。

 生まれたときから妹だと信じていたアンナは庶民の生まれだった。彼女は私たち家族とまるで似ていなかったし、セネット家特有の魔法である『癒しの魔法』を使うことができなかった。そのことでアンナは肩身の狭い思いをして育った。やっと婚約者であるエドモンドと仲良くなり、これからは順風満帆かと思われていたのに庶民となってしまった。身分差を考えるとエドモンドとは婚約を解消しなければならない。そのことで傷ついているであろうアンナを慰めることさえ、今の私にはできない。中途半端な手助けはかえってアンナの迷惑になることはわかってはいるが、早く大人になりたいものだ。


 庶民になってしまったアンナは慎重な性格をしていた。何事も計画してから、実行するような所があった。

 庶民として長いこと暮らしていたアネットはこちらが思いつかないことをするから目が離せない。


 突然妹になったアネットを初めて見たとき、自分と似ているなと思った。


 だがすぐに思いっきり裏切られた。

 アネットは私とはまるで違う次元にいる。おそらくそれは女性だからだ。女性蔑視だと思われるだろうが、それも致し方ない。男性である私には理解不能なことばかりするのだから。

 私の母にしてもそうだが、女性は男性とは全く違う思考をしている。

 

 私はアネットに初めて会ったときに母がアネットを抱きしめたとき、心底驚いたのだ。

 父にしても私にしてもあの時のアネットを抱きしめることなど論外だった。

 確かに見た瞬間に妹だと感じた。


 だがアネットは身綺麗にはしていたが、抱きしめるには躊躇する匂いがした。毎日お風呂に入る私たちとは明らかに違う匂いが漂っていた。その匂いが長年暮らしてきたアンナからしたのであれば躊躇なく抱きしめることができたのかもしれないが、初めて会った妹であろう人物には無理だった。

 そんなアネットを母は躊躇することなく抱きしめたのだ。

 驚くなというほうが無理だ。


 母は汚れたものには触るなどないような人だ。その母がアネットを抱きしめたのだ。

 父はそれを少し離れて見ていた。娘だと感じていても抱きしめることはできないようだった。それは私も同じで、そこが男性と女性の違いでもあり、母親と父親の違いでもあるのだろう。




 アネットは初めに脅したのが効いたのか、脱走を試みることもなくおとなしく家庭教師による授業を受けている。

 これは少しばかり意外だった。てっきりもう少し反抗するものだとばかり思っていた。彼女なりに貴族としての教養を身に着けようと頑張っているようだ。

 だが目を離すと木に登っていたり、屋根の上を歩いていたりとアンナとは全く違う行動をする。その度に彼女付きのメイドはハラハラさせられているようで、侍女長の方から私の方へ苦情が上がってきている。


「高いところが好きなのか?」ときくと「高いところは苦手よ」と応える。

「それならなぜ高いところに登るのか?」と尋ねると「運動不足で太っちゃうわ」とわけのわからない言葉が返ってくる。


 明らかにアンナとは違うもう一人の妹であるアネット。

 嫌いではない……、と思う。好きかと聞かれると、まだわからない。

 アンナのように守ってあげなければとか可愛い妹だとは全然思えないけれど、見ていて飽きない風変わりな妹ができたなとは感じている。

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