肉体関係から始まる新生活

星成和貴

初体験

 あの日、終電を逃してしまった俺は自宅までの長い距離を歩いていた。タクシーを使おうとも考えたけれど、財布の中にはあまり入っていないから、諦めた。

 空にはきれいな満月。普段見ない町並み。そして、ずっと歩いていることによる程よい疲労で俺は高揚していた。

 だから、なのだろう。あんな誘いに乗ってしまったのは。あの時までの俺にはそんな趣味はなかった。嫌悪感などは全くなかったけれど、自分が当事者になるだなんてことは全く思ってはいなかった。


 歩き疲れた俺は自販機で缶コーヒーを買って、公園のベンチでゆっくりと休んでいた。すると、そこに見知らぬ男性が近づいてきた。

「この後、俺とどう?」

 何を?と疑問に思ったけれど、俺は無意識のうちに頷いていた。

 場所を移動する、とのことで二人で歩いている途中、彼はいくつか俺に質問をして来た。


 どうして誘いを受けてくれたのか。

 いつ頃からこうだと気付いたのか。

 周囲に打ち明けているのか。


 全て、俺は答えられる範囲で答えていたが、彼は気付いてしまった。俺が何も分からず付いてきていることに。

 彼は急に慌てて、初めてなのか、本当に俺とでいいのか、などと何度も確認をしてきた。俺は悩んだ末に、大丈夫、と答えた。この時にはもちろん、この後彼が何をしたいのかは分かっていた。それでも、何故か俺は断ると言う選択肢が浮かんでは来なかった。

 彼は、ありがとう、優しくするから、と言ってくれた。思えば、この時にはすでに名前も知らない、会ったばかりの彼の人柄や雰囲気に惹かれていたのだと思う。

 そして、公園の中心に近い木陰。外からは全く見えない場所に着くと、彼は優しく俺にキスをした。

 それからのことは、全く覚えてはいない。気付けば全てが終わっていた。ただ、今までに感じたことのない快楽の残滓ざんしだけが身体の奥底に溜まっていた。

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