【短編】真野マオちゃんねる~前世魔王のリアル系バーチャル配信者~

キョウキョウ

第1話 初配信

「こんばんまおー。真野しんのマオじゃ」


 私は、カメラに向かって手を振りながら画面の向こうにいる視聴者へ挨拶をした。パソコン画面には、コンピュータグラフィックスの技術で制作されたキャラクターが手を振っている様子が見える。


 カメラに向かって手を振る私の動きと連動して、同じように手を振って動いているバーチャルキャラクター。その画面と同じ映像が、動画配信サイトを通じて視聴者へ送り届けられていく。


 画面に映るのは、頭に角が生えていて赤い髪の毛が伸びた、褐色肌の女の子という容姿の3Dキャラクターだ。


 世間では、バーチャルキャラクターとして知られる動画配信の方法。カメラで映る私の動作をリアルタイムでキャプチャーすることにより、画面の中も自由自在に動く3Dキャラクター。まるで生きているかのように、リアルに動く様子キャラクターを見て楽しむそうだ。


 早速、視聴者からコメントが殺到する。事前に初配信の告知をしていたので、それを見て来てくれた人たちだろう。


【こんばんは】

【こんばんは!】

【こんばんまおー】

【こんばんまおー。それが、決まりの挨拶かな?】

【かわいい挨拶だね】

【キャラのデザイン好き】

【声もかわいいね】


 コメント欄に、バババッと視聴者が入力した言葉が順番に表示されていく。挨拶の返事、画面に映るキャラの見た目、声の感想についての反応が返ってきていた。


 どんどん視聴者数が増えていき、開始3分で既に326人が配信を見に来ていた。私の声と映像を326人も見ている、というのか。また増えて、348人になった。久しぶりに、それだけ多くの者たちに見られる感覚を味わう。


 そんな事を考えているうちに、どんどん視聴者が増えていく。


 カメラの向こう側に待機している、配信のサポートをしてくれている友人に視線を向けてみる。すると彼女は、人差し指を胸の前で小さくクルクルと回していた。早く次に進行しろ、ということかな。


「声、聞こえているか? 音量とか大丈夫か? 配信の映像とか、問題ないかな?」


 カメラに向かって笑顔を浮かべ、配信を見てくれている視聴者に問いかける。私の目の前に置かれているパソコン画面に映るキャラクターも同じ笑顔を浮かべていた。まずはスケジュール通り、音声と映像のチェックだ。


【おおおおお】

【聞こえてるよー】

【良い声だな】

【リアル女子? だよね】

【バ美肉ではなさそう】

【ケロケロ感が無いからね】

【スムーズに動いてる。動き可愛いな】

【これが最近流行りの、バーチャルキャラクターってやつか?】

【バッチリ!!!!!!!!!!!】

【キャラに声が似合ってるね】

【笑顔が可愛い】

【ナイスです】

【音量の設定は大丈夫です。聞こえやすいよ】

【お気遣いありがとう】


「コチラこそ、反応ありがとうございます。配信は、特に問題無いみたいですね」


 ちゃんと声は聞こえているらしい。画面に映っているキャラクターに問題も起きていないことを確認できた。じゃあ、自己紹介を始めようかな。


「それじゃあ、改めて。初めまして人間共、妾の名は真野しんのマオじゃ」


【おお。雰囲気が変わった】

【可愛らしい声から、威厳ある雰囲気】

【声優じゃん。スゴ】

【もしかして、リアル声優?】

【女優さんとか?】


 コメントが流れているが反応は後回しにして、とりあえず自己紹介を先に進める。


「妾は元魔王で、この世界に人間として転生してきた。この姿は、魔法の力で前世を再現している。こちらの世界で仲良くなった友人に誘われ、面白そうなオタク文化に興味を持って配信に参加してみたのじゃ。よろしく頼むぞ」


【はえー】

【よく練られた良い設定】

【語尾のじゃ女子】

【おい友人】

【純粋な魔王様にオタク文化を教え込む悪の友人】

【ストーリー設定がしっかりしてるね】


(実は、創作した設定じゃないんだけどね)


 私は、今まで誰にも話したことのない転生の秘密について初めて打ち明けてみた。しかし、視聴者全員がロールプレイしたキャラクターの設定だと思って見ているようだった。


 協力者である友人も、私が本当に転生してきた魔王であるとは信じていなかった。ただ私が彼女に語った話が面白いと思い、そのままバーチャル配信者のキャラクター設定に採用しているだけだった。


 私が彼女に語った話が、前世で本当にあったことだと知らずに。


 こちらの世界でも、魔法の力を使えるように鍛えている。ある程度は使えるようになったが、まだ一度も誰かに見せたことは無かった。この力、いつか友人に披露するつもりだ。とりあえず今は、配信を成功させられるように集中しないと。


「それじゃあ、さっそく。初配信で皆からの質問に答えていこうかと思う。お前達、何か聞きたいことはあるか?」


【年齢は?】

【本当に女性? ボイチャン?】

【魔王様は、なんで俺たちの世界に転生してきたの?】

【何歳?】

【前世で住んでた世界は、どんなところ?】

【魔法は使えるの?】

【強さはどれくらい?】

【***】【***】【***】【***】


「うぉ。いっぱい質問が来たな。どれから答えるか」


 視聴者に質問を募集してみると、次々と聞きたいことについてコメントが入力され画面に流れた。目で追えないぐらい大量だった。どうやらみんな、私のことについて興味津々のようだ。


 協力者の友人に視線を向けると、彼女は配信に声が入らないように口を閉じたまま質問内容を表示させたタブレットを掲げていた。


 その画面に映している質問に答えろ、ということかな。


 友人が選んだ質問に、順番に答えていく。1つ答えると、タブレットに表示される内容が次に切り替わって、それに答えていくだけで質問返しすることが出来た。


「今の妾は、16歳。普通の高校生じゃ」

「魔王だった頃は、男にも女にもなれたな。だが、人間になった妾の性別は女じゃ」

「機械を使って声を変えたりは、しておらん」

「転生した理由は分からんな。死んだら、この世界に生まれ変わっていた」

「前の世界では、数千年ぐらい生きていたかな。正確な数値は覚えておらぬ」

「魔界は、弱肉強食の世界じゃ。強さを示せば、誰でも魔王になれる」

「人に生まれ変わってから、かなり魔法の力は弱くなった。出来ることは、この姿に変化することぐらいじゃな。今のところは」

「魔王の頃と今の実力を比べたら、数兆倍分の1ぐらいになっているな。今の妾は、もの凄く弱いぞ」


 多少、嘘も交えつつ答えていく。前世に関することや、友人以外に話したこと無い秘密について存分に語れて、私は大満足だった。


 回答を聞いた視聴者たちが、続々とコメントで反応してくれた。


【マジの高校生?】

【魔王モードの時、声に威厳がありすぎるよ】

【なるほど。そういう設定ですか】

【バーチャルキャラクターで、ここまで事前に設定を準備してるのは珍しいかも】

【どこまでロールプレイを崩さずに配信を続けられるかな?】

【世界観、正直好き】

【マオ様の住んでいた世界について、詳しく】


 そんな感じで、真野マオの初配信は進んでいった。

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