番外編~梅葉が結ばれるまでの一部始終~
「好きです……」
私は目の前で頭を下げる文也に対して驚きを隠せなかった。
「付き合って……ください!」
今、席の近い瞬太や筧とは違って文也はどちらかというと大人しめで、その文也が2人と仲良いことにも、そして文也が私に好意を寄せていたことにも驚く。
でも……たった今私には好きな人ができたんだ。でもそれをどう伝えればいい?
私の頭の中で言葉が渦を巻く。
「友達が……いい」
やっと絞り出した言葉はありきたりなものだった。
顔を上げた文也は小さく「ごめん」と呟いた。
この日、私は自分の気持ちに気づいた。
「はい、プリント」
前の席の瞬太から国語のプリントが渡されて、それを受け取る。すると。
「ちょっと、取らないでよ」
「ごめんごめん」
これが恒例行事だ。筆箱の攻防戦。私が勝った回数は未だ0。
そんないたずら好きなのに、いざという時は優しいのが瞬太という人物だ。だからいたずらも男子にありがちなものと大目に見ていた部分はある。
大目に見てたんじゃない。瞬太のことを好きだったのだ。
ちょっかいをかけられるのも優しくされるのも嬉しかったのだ。
俯く文也の隣で頭を撫でる瞬太。私もあんな風にされたいな、なんて思うのは行き過ぎだろうか。
バレンタインも近づいたある日私は勇気を出してみることにした。音色ちゃんにも相談して手伝ってもらうことにした。
「今度の土曜か日曜、空いてる?」
恥ずかしくて私は何一つ言葉を発することができなかったけど、音色ちゃんが代わりに言ってくれた。
結局バレンタイン前日、13日に私、音色ちゃん、瞬太、文也の4人で集まることになった。
初めてのバレンタインチョコも渡し、とても楽しい時間を過ごせた。でも、この時間も終わってしまうのだと思うととても悲しく思えた。始まると言うことは終わるということだと実感したのだ。
でも……。それから1ヶ月が経って何度か4人で遊んだり、2ヶ月が経ってお花見に行ったりしたけど、一向に私と瞬太の距離は縮まらなかった。むしろクラスが別々になって離れたくらいだ。そのせいだろうか。瞬太と文也から遊びに誘われても言葉を濁すようになったのは。
そんなある日、同じ部活の友達によく分からないことを聞かれた。
「梅ちゃんさ、もし瞬太に告られたらOKする?」
私は何がなんだか分からず「もしされたらするんじゃない?」とその場のノリで答えてしまった。
だが、よくよく考えれば何もなしにそんなことを聞かれるはずはない。……まさか私の好きな人がバレた?
その予想は1週間後良い方で裏切られた。
「好きです!付き合ってください!」
「キャー!」
「かっこいい~!」
ガヤがうるさいが、私はなんと瞬太に告白されたのだ。本当なら今すぐに頷きたいところだが……。
「ごめん、ちょっと考えさせて……」
これが現実のこととは思えなくて私は一旦保留することにした。
数日後。
「もしもし」
「もしもし……」
瞬太の声だ。
「梅葉です」
「お、おう」
眠たげだった瞬太の声が一気に硬くなる。
「あれから考えたんだけど……」
一呼吸おいて告げる。
「よろしくお願いします」
「……マジで?」
心の底から驚いた声の瞬太。この人が私の彼氏だと思うと誇らしい気分になった。
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