三歩目~友への相談~
一ヶ月後。
帰りの会が終わり、僕は抑えきれない思いを必死に隠しながら帰路についた。……しかし。
「おっ寺末、いたぞ」
「本当だ~」
校庭端にあるうさぎ小屋の前までやって来たところで、突然後ろから飛んできた声に僕は振り返らざるをえなかった。
「瞬太に音色、お二人揃って何事?」
すると突然僕は瞬太に脅された。
「今、悩んでることあるんだろ?ちゃんと言った方がいいぜ」
「なっ!なんで……それを?」
僕はおもわず漫画などで出てきそうな言葉ランキング第28位の「なっ」を使ってしまった。
「寺末はね~分かりやすすぎなんだよね~」
音色にまで言われた。だからなんで知ってるんだ。
「授業中、無作為に調べたところ約50%の確率でお前はとある人の方を見ていることが判明した」
なんだって!?と思ったが、下手に動揺を見せて良いことは無い。さも、へーそうなんだーとしか思ってなさそうに相槌を打つ。
「ほう……?」
「聞きたいか?」
……こいつ、心理戦強いな?さては。一旦、落ち着こう。これは“いいえ”と答えてしまうと、自覚がある、となってしまい認定されること間違い無しだ。ならば……。
「まあ、気になるっちゃあ、気になるよね」
「ならば教えよう」
ってか今さらだが、瞬太は何キャラなんだ?──そう思い、音色に小声で聞いてみたのだが、首を振られた。
「お前が無意識のうちに……かどうかは知らないが、好意を寄せている……かも知らないが、意識している人。それは、梅葉。うちのクラスの麓 梅葉で間違いないな?」
まるで尋問だな。……ん?尋問?
「……ああ、そうだよ刑事さん」
「よくぞ素直に言ってくれた」
「まあ、ここで隠したところで意味など無いからな」
「ああ、そうだな。どうせ隠してもいつかはバレるんだ早めに言ってくれたからこちらも楽だった」
「寺末は隠しても“いつか”どころじゃなく秒でバレると思うんだけどね」
おいおいおい、せっかくこっちが刑事ドラマを繰り広げていたというのに──と思ったが瞬太の方が早かった。
「おいおいおい、刑事ドラマの邪魔をするんじゃねえ」
その声に、うさぎ小屋の穴うさぎたちが一斉に巣穴に戻っていく。
「ちょっとこの空気があまりにも異様すぎたからちょっとね。だってどっちが捕まりそうかって言うと……」
「ん?」
瞬太が笑顔で手首を回し始め、音色は全力で首を振った
「なんでもないよ、なんでもないよ?」
瞬太さん、そういうところです。根がいいやつなのは分かっているのですが。
「んで……。結局、寺末は梅葉のことをどう思ってるんだ?」
と、瞬太の過去に脳をシフトしようとしたところで、唐突にそんな問いを投げかけられた。動揺。
「どうって……。好きだという気持ちはあるよ」
「じゃあ、さっさと告白しちゃいなよ」
いやいやいや音色さん、それはいくらなんでも早まりすぎじゃ……。
「音色、それは」
おっ、瞬太!助け船だ!
「そうだと思うぜ。先延ばしにしていい事なんて無い」
くっ……一瞬期待したんだがなぁ。
「ただ、もう二学期は終わる。一旦、寺末には冬休みの間に自分の気持ちと相談してもらうべきだと思う」
「それはそうだけど……。心移りしちゃうかもしれないよ?」
「そんときはそんときだ」
なんで授業の時より真剣な顔なんですかねえ、お二人さん。
「まあそうだね。人間は打ちのめされて強くなるものだし」
ってか僕がここにいること忘れてません?
「じゃあ寺末に言っておくぜ」
「そう言えばいつの間にか寺末の姿が見えなくなってるね」
いややっぱりーー!!
「ここにいるのですが……」
僕はおずおずと手を上げる。
「忘れてるわけねえだろ」
良かった良かった。
「とりあえずここにいるアピールをしたいのは分かったが両手上げるのは意味が分からなさすぎるから下ろせ」
「はい……」
僕は渋々両手を下ろした。
「ってなわけでまあ聞いてもらったとおりだが……どうする?」
「そりゃあ考える時間は欲しいよ」
「だろうな」
なんで、この二人はここまで親身なのだろう……。そう思ったとき僕の鼻の上に冷たい何かが乗った。
「あ、雪」
音色がそう呟いた。
「本当だな。寒いしとりあえず帰るか。じゃあまた明日な」
「ばいばい」
「ういっす……」
うさぎ小屋のうさぎたちは寒いからか一匹も出てこなかった。
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