恋愛階段
音槌和史-おとつちまさふみ-
一歩目
平坦な迷路の中を歩き続ける平凡で良くも悪くも平和な人生。それは呆気なく崩れ去った。
先月行われた、小学校生活最後の修学旅行。そこで班ごとに撮った写真が配られた。その写真を見たとき、僕は気がついてしまったのだ。
─一月前─
「じゃあ、今から修学旅行の班を決めたいと思います」
担任の先生がそう言って、盛り上がるクラスメイトたち。そう特段と仲が良い人がいるわけでもなく、かと言って嫌われているわけでもない僕からしてみると正直、修学旅行の班決めはそんなに重要視するものじゃない。
「文也~同じ班なろうぜ」
どうしようか思案し、立ち上がろうとしたところに運良く頭上からそんな声が聞こえてきた。
「おお、筧!いいよ~」
筧に連れられて行くと、もう一人の男子も決まっていた。
あとは女子との組み合わせが決まるくじ引き次第で正式な班のメンバーが決まる。うちのクラスの女子の中なら……梅葉とかかな。梅葉はクラスで1、2位を争う頭の良さでありながら、たまにやらかす天然系女子だ。つい最近、体育大会で応援団長をしていた人が梅葉を好きらしいという噂も流れている。クラスのメンバーの恋愛センサーは何故こんなにも敏感なのだろうか。まったく分からない。……まあ、そんなセンサーにお世話になることはほぼほぼ無いと思うが。
そして、くじ引きの結果は……。お、梅葉と同じ班だ。まあいいんじゃないか?
─現在─
蘇る修学旅行の思い出。蘇る梅葉の笑顔。募る好意。
僕は気づいてしまった……。梅葉のことを好きだということに。
これまで、こんなにも強い好意を持ったことがあっただろうか。これまでにも周りの人を好きになったことはあった。しかし、これは違う。これこそ正真正銘の……初恋だ。
僕は同じ班のメンバーが写った写真を手にしたまま動けなくなってしまった。
クラスメイトの声は遠ざかり、耳鳴りのようにも感じられる。しかし耳鳴りでないことは一瞬で分かった。
「そういや、梅葉ちゃん好きな人いるらしいよ?」
「へぇ~。あいつは一途そうだよな、なんとなく」
!?
同じクラスの瞬太と音色の声だけははっきりと聞こえたのだ。
「誰だか分かる?」
音色がそう言い、聞き耳を立てる。
「さあ、団長とか?」
「それは団長の片想いだって」
「寺末とか」
突然、瞬太が僕の名前を呼んだ。
「二人とも真面目だし案外、お似合いなんじゃね?」
「──やっぱ教えな~い」
「なんなんだよ!」
僕と……梅葉が……お似合い?
いやいやいやいや。そんなわけないだろう。コミュニケーション力も低く、運動も得意ではなく(“苦手”と言わないプライド)、顔面偏差値も低く、辛うじて周りよりやや勉強ができるくらいの僕と、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の三拍子が揃った梅葉が、お似合いだとしたら「月とすっぽん」なんてことわざ無くなるだろう。
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