第25話

 声が聞こえる。知っている人の声だ。


「…………い」


 何かの重さを感じた。肩が揺さぶられていることも分かる。段々と頭の中がすっきりしていく。


「お客さーん、終点ですよー」


 部長だ。


「……何してんすか」

「こっちが聞きたいよ」


 俺の隣に指をさす。斎藤さんが俺に寄りかかって眠っていた。安らいでいる寝顔、穏やかな顔だ。こっちの姿でもこんな顔するんだなってそうじゃない。


「えっとー……」

「うちも知らん。さっき来たばったか」


 やっぱり顔に出たらしい。とりあえず周りを見る。駅だ。駅のベンチに座っている。


「駅員さんも起こそうとしたらしいよ」


 視線を感じる。部長じゃない。離れた所からこっちを見る人間の視線だ。隣で眠っている子が原因なのは分かるけどこれは確かにキツイ。


「聞いてんの?」

「聞いてるよ。部長はどうしてここに?」

「久ちゃん探してほしいって藤崎さんに頼まれた」


 舞さん。名前を聞いて思わず立ち上がりそうになった。


「亜里沙起きちゃうよ」


 部長に止められ座り続けることにする。


「藤崎さんなら保健室で寝てる。疲れちゃったって」


 保健室で寝てるってことは終わったと考えていい。寝込むほど大変なことがあったのなら後で何か持って行こう。

 斎藤さんが起きるように少し肩を動かしてみたけど反応はない。熟睡してる。


「起きないねー」


 空腹だしいつまでもこの状況というわけにはいかない。

 空腹。そういえば今何時だ?時計を見ると短針は1を指している。もうそんな時間なのか。


「結局さあ、亜里沙の中にあった光彩が原因なんだよね?」

「そんなとこ」

「この子さ、小学生のときの思い出ってなると隣の男の子の話をよくしたんだよ」


 部長が斎藤さんとは逆の位置に座った。


「元々転校が多かったし体が弱くて学校も休みがちだったからクラスにうまく溶け込めなくて隣の子によくノートや教科書見せてもらったって」


 俺のこと、なのだろう。


「そのうちその子と仲良くなったのが切っ掛けでクラスにも馴染めたんだけど今度は周りから冷やかされるようになったって」

「からかってるだけでしょ」

「休みがちだったからそういうの分からなくていつも謝ってたって。相手は嫌だったろうなって言ってたよ。これ、久ちゃんだよね?」

「……だと思う」

「いい奴じゃん」

「……そうかな」


 できたのは曖昧な返事だけだった。本当にいい奴なら電話やメールで連絡を取り合うことぐらいやってたと思う。


「亜里沙もそう思うよねー?」


 隣の子を見る。感じる重さは変わらない。


「……起きてるの?」

「うちの目はごまかせねーぞ。何なら中学時代の恥ずかしい話もっとしよーかー?」


 重さに変化がった。斎藤さんの頭が俺の体から離れて行く。


「ほらね」

「……タイミングが掴めなかっただけよ」

「……起きてたんだ」


 何か気まずい。


「……ええ」

「……いつから?」

「うちが久ちゃんに声かけてるときだよ。目動いてんのに寝たふりしてんだもん」

「……悪かったわ」


 部長は立ち上がって斎藤さんの前へ歩き立ったまま向きあった。


「亜里沙だよね」

「ええ」

「もう、大丈夫なんだよね」

「迷惑をかけたわ」

 

 抱きついた。部長が斎藤さんに。


「恥ずかしいって……」

「いーじゃん、喜びを表してんだよ」

「目立つよ、それ」

「気にすんな」

「春香はこういう子よ。久弥」


 部長の視線がこっちに向く、同時に斎藤さんもこっちを見てる。


「何々? どーいうこと?」


 うん、間違いない。あの目は呼んでって言ってる。


「亜里沙と約束したんだよ。昔みたいに呼び合おうって」

「そーなの?」

「ええ」

「いつ? どこで?」

「あのでかい光彩の中」

「……どゆこと?」


 これだけ聞いてもわかるわけないか。


「飯食いながらでも話すよ。2人は腹減ってない?」


 話さなきゃいけないことはあるけど腹も減った。


「じゃあどっか食いに行こう」

「私も何か食べたいわ」


 近くのファミレスでの食事の後、俺達はデパートへ向かった。


「私の中にあった光彩が磁石のようなものだってことは話したわね。それは人の姿をした2つの分身に光彩の回収をさせていたの。2人を襲ったのもその分身、もちろんおとりの意味もあったわ。けど光彩がコントロールできなくなったから人の姿をした分身にコントロールできる分の光彩を移していた。あの人はそれを分身ごと消したのよ」


 何が起きてどうなったか、亜里沙によるとこういうことらしい。


「よく分かんない」


 そのときの部長の感想がこれ。俺もそう。夢を見てるみたいだった。


「何か買うんだよね?」


 部長が周りをキョロキョロ見ながら聞いてきた。多分こういう場所に来たことが無いんだろうな。


「差し入れ用のお菓子」


 俺達はデパートの土産物売場にいる。


「こういうとこの5個で1000円とかのやつがいいんだよ。高校生じゃこういうのもらわないしね」

「おー」


 部長に軽く拍手された。


「亜里沙ー。うちらも何か買おうよー」


 はしゃいでいるのが俺でも分かる。お菓子を見て回るの好きなんだろうけどそれだけじゃないよな


「そうね。これなんてどうかしら?」


 ケーキを指している。よく分からない名前をしているけど女の子なら喜びそうだ。


「でもそれ結構高いよ」


 亜里沙は店の表示をじっと見ている。


「本当だわ」

「うちはこれいいと思う。2人で買お、久ちゃんはどうすんの?」

「あっち見てくるよ」


 あらかじめ決めていた5個で税込1100円のお菓子を買って2人と合流すると部長が携帯をいじっていた。隣では亜里沙が2人で買ったらしい袋を持っている。

「うちのクラスの子から連絡あった。藤崎さん家に帰ったって」

「じゃそっちに行こう。電話するからちょっと待ってて」

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