第22話
携帯の着信音で目を覚ます。時間は朝7時で目覚ましが鳴るまでまだ時間がある。寝ぼけたまま携帯を取ると聞き覚えのある声が聞こえた。
「ごめん、起こしたよね」
舞さんだ。急いで頭の中のスイッチを入れる。こんな朝から電話をするってことは何かあったってことだ。
「何かあったんだよね?」
「そうなの、今学校の前にいるんだけど……」
そのまま切れてしまった。
「舞さん? 聞こえる?」
呼びかけてもダメだ。こっちから電話してもつながらない。この状況はかなりまずい。場合によっては後で謝ることも考えたうえで部長に電話することにした。
「出てよ……」
コールの音が数回鳴り、俺も思わず声が出る。
「何? 久ちゃん」
出てくれた。
「朝からごめん。部長って学校近いよね」
「そうだけど」
「舞さんと連絡がとれないんだ」
「どゆこと?」
「さっき舞さんから今学校の前にいるって電話があったけど途中で切れて今もつながらなくなった」
「分かった。学校見てくる。久ちゃんはそこで待ってて」
「けど……」
「狙われたのは久ちゃん」
それを言われると何も言い返せない。
「……分かった」
「よろしい。着替えぐらいしろよ」
電話を切ってすぐに顔を洗い着替えを済ませた。電話をしてから10分経とうとする所で着信音がした。部長だ。
「どうだった?」
「……学校の上にさ、でっかい光彩あるよね。あれが学校包めそうな位大きくなってる。後、学校の周りから光彩が見えなくなった」
そうだ。屋上にはでかい光彩があった。
「学校の光彩が全部そこに集まってるとか?」
「だね」
「学校サボれそう?」
「2、3日なら」
「じゃあ、休んだ方がいいよ」
「久ちゃんは?」
「舞さん待ち。学校には行かない」
「何か分かったら教えて」
「了解」
電話を切る。問題はこれからだ。
ただ待つだけってのはすごくもどかしい。何もできないなら何かできることを探せばいい。それは分かるけど具体的なことは何も思いつかない。
何が起きるかわからないんだからとりあえず朝食を食べる。できることはそれしか思いつかなかった。
ノック音とチャイムがした。大家さんの可能性は低い。
「私。久君起きてる?」
インターホンから舞さんの声がしたのでドアを開けた。
「どうしたの?」
「携帯壊れちゃって」
そのまま舞さんを部屋に上げた。軽く息を切らせている。ここまで走ってきたのだろうか。
「飲む?」
舞さんを座らせてからお茶を用意して差し出した。
「もらうね」
一気飲みをしてから大きく息を吐いている。
「ありがとう」
飲み干したカップを受け取った。
「やっぱり斎藤さんだった。学校に行ったらあの人に会ってね、話を聞いてくれなくて文芸部の部室の時みたいな光彩を使ってきたの」
こんな朝から学校を見に行ってたのか。
「彼女も私みたいに光彩を使えるみたい」
「そっか」
俺みたいに襲われたんだろうな。やっぱり斎藤亜里沙か。部長になんて言おう。
「部長から学校の上に大きな光彩が見えるって聞いたけど何か知ってる?」
「学校中の光彩を1つに集めてるのよ。小和田さんは?」
「サボるの勧めといた。これからどうなると思う?」
「分からないな。あんなに大きな光彩を見たのは初めてなの。けど私達が狙われていることだけは確実よ」
エサと邪魔者か。そんな2人が一緒に行動してたらそりゃ邪魔だろうな。
「あの光彩が自然に存在しない大きさならそれを操っている何かがある。それを調べて用と思う」
「じゃあ学校に?」
「そうね。小和田さんの番号教えてくれる? もう1度部室を調べておこうと思って」
部長に電話をかけるとすぐにつながった。
「何かあった?」
「舞さんが今俺の部屋にいて部長に話したいことあるって」
「そこにいるの?」
「うん、じゃ変わる」
舞さんに携帯を渡すと舞さんは部室のカギについて話し始める。どこかで借りる約束でもしてるのだろう。舞さんに渡したコップを片づけると舞さんが携帯を差し出してきた。
「ごめんね」
「いいよ。俺に出来ることってある?」
「久君が狙われているのには何か理由があるはず。だからここから離れてほしいの」
逃げるだけか。分かってはいたけど悔しいな。
「終わったら連絡するから」
そう言って舞さんは出て行った。
終わる、とはどういうことを指すのだろう。 大きな光彩が消えること? 学校の光彩の無くなること? それとも、斎藤亜里沙がいなくなること?
違う。彼女は人間だ。あの女子高生達とは違う。
そう否定をしても新しい疑問が浮かぶ。
本当の斎藤亜里沙はもういなくて今いるのは光彩でできた偽物なのでは? もし彼女が舞さんと戦って、女子高生のように負けたらどうなる?
楽観的な考えは持てそうになかった。俺は今の状況に対して何か知恵や知識がある訳でも具体的な対策がある訳でもない。舞さんを見送ってただ逃げるだけしかできない。
なら逃げよう。どこへ行くかは電車の中でも考えられる。
駅に着いた俺の視界には斎藤亜里沙が映っていた。
「遅かったわね」
考えが甘かったかもしれない。
何も考えなかったわけじゃない。今自分にできること、舞さんのこと、部長のこと、そんなことばかり考えていた。どう逃げるか。向こうはどう考えるか。そこまで意識が回らなかった。
電車が着いたばかりなのだろう。電車組の生徒が歩いている。見慣れた制服も見慣れない制服も見たことがある顔も知らない顔もある。大勢の人間の中でも彼女の存在だけははっきりと分かった。
人だかりの中にいても斎藤亜里沙は違う世界の人間みたいに浮いて見える。光彩の影響なのか元々こういう人間だったのかは分からない。どちらにせよ今の彼女には強烈な存在感があった。
頭痛がする。アイスを一気食いしたときの何倍もキツイやつだ。この感覚は憶えている。あの日以来の感覚だ。忘れる訳がない。
自分を見透かされているような感覚がする。逃げようとしても足が動かない。まるで金縛りだ。少しずつ彼女が近づいてくる。頭が痛い。思考がうまく回らない。
それなのに目だけはしっかりと動いているのが理解できる。俺の目は彼女に引き寄せられたままだ。
すごく痛い。近づけば近づくほど頭痛がひどくなる。あの時よりもひどくなってきた。
まだ頭は動く。おかげで体が動かない理由が分かってきた。光彩だ。2人目の女子高生が使っていたベルトみたいなやつ。あんなのが俺の足を縛っていた。
「あ……あ……」
俺は、何がしたいんだ? ダメだ。頭が痛くてもう何も考えられそうにない。
「亜里沙……」
声が出た。何だ。何なんだ。何でこんなことするんだ。そうだ、光彩だ。光彩、原因、斎藤、亜里沙。
女の子が立っていた。目の前に立っていた。手を伸ばして立っていた。
手? 保健室、危ない。掴む? 掴めた。できた。どうする? ここは、危ない。どこかに、移動。歩く? できる。足が動く。どこに? 座れる、場所。ココは、ダメだ。人が多い。歩く。引っ張る。後ろ、いるのは、斎藤、亜里沙。襲うなら、早くしろ。襲われる、準備は、できている。
座れる場所。あった。座る。座らせる。 危ない? どうでもいい。今は、休みたい。何か、眩しいな。
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