第7話

 相変わらず重いけど歩ける位は体が楽になったから支度をして帰ろうとすると別の問題が出てしまった。舞さんが椅子に座ったまま動かないのだ。


「……ケガでもした?」

「疲れちゃったみたい」


 軽く笑っていたけどそれだけには見えなかった。


「ベッド、使う?」


 自分がさっきまで寝ていたベッドを指差す。


「先生来たら体調悪そうだから譲ったって言っとくよ」


 返事は無い。


「ダメならいいよ。気にしないし」


 人が使った後のベッドをそのまま使うのに抵抗があるのは分かる。しかも相手は男だ。けどこういう時は多少強引でも寝かせた方がいいだろう。本当に疲れただけなら椅子から立てなくなるなんて思えない。


「おぶろうか?誰もいないんだし」

「……お願い、していい?」


 よしきた。

 ほんの少しの距離だけど舞さんをおんぶすると嗅いだことのある匂いがした。やっぱり昨日の匂いは舞さんのだと思う。


「あら、もういいの?」


 舞さんをベッドまで運んで一息つくと白衣を着た中年の女性が保健室にやって来た。この学校の保険医だ。


「はい。でも藤崎さんが体調を悪くしたみたいで今ベッドで寝ています」


 一応、無断で貸したことについて確認はとっておこう。


「まずかったですか?」

「まさか」


 よし。

 保険医は備え付けの棚から何かの薬を用意している。きっと舞さんに飲ませる薬を用意してるんだと思う。

 ちょっと待った。普通体調を悪くして寝込んでる時は胸元を楽にするもんだ。だとすると舞さんは今シャツのボタンをかなり外している。保険医が様子をみたり体調の質問をするとなると舞さんは状態を起こす可能性はある。

 体調が悪い時に自分の外見に気を使う余裕があるだろうか? うん、俺いない方がいいな。大家さんに電話しとくか。


「俺、外に出てます」

「分かった」


 返事をしたのは保険医だけで、舞さんは寝込んだままで何も返してはくれなかった。やっぱり無理してたんだな。

 保健室から出てポケットにある携帯を取り出す。大家さんに電話をしたが繋がらなかった。携帯をポケットに戻してから保健室に呼びかける。


「入っていいですか?」」


 少し待つと「どうぞ」という保険医の声。入っていいと判断し扉を開け保健室の入ると舞さんが寝ているベッドを覆うシーツから保険医が出てきて、手招きしてくる。


「ちょっと聞いてもいい? 頭痛ってどんな感じだった?」

「……どんな?」


 質問の意図がよく分からない。


「変な痛みとかあった? 最近頭痛で休みに来る子が多いから聞いてることにしてるの」


 ああ、そういうことか。


「アイスを一気食いした時の何倍もキツイ感じです」


 頭痛自体にウソはついていない。光彩抜きならアレはただの頭痛だ。ただ気になる単語が出てきた。


「最近多いっていつぐらいからですか?」


 大家さんは光彩が原因で頭痛や吐き気のような症状が表れると言っていた。もしやばいことになっていたら学級閉鎖とか休校とか起きてるはず、念のため聞いておきたい。


「今年に入ってからね。今の時期は気温の変化が激しいから体調を崩す子は多いものだけど、最近は特に多いの」


 話し終えた保険医が自分の椅子に座る頃に携帯が鳴り、画面を見ると大家さんからだった。


「何かあった?」


 もう1度保健室を出てから携帯に出ると呑気な声が耳に響く。


「舞さんが倒れたんです。今保健室で寝ていて……」

「分かった。すぐ行くわ」


 真剣な声でシンプルな返答をする大家さんに驚いてすぐに返答が出なかった。


「切るね」


 そのまま切れてしまう。どうしようかと思ったけど10分後には校門で車を停めた舞さんから電話があり、舞さんを乗せて帰ることになった。


――――――――――


「今日は大変だったね」


 家に着いた俺と大家さんは舞さんを彼女自身の部屋に運び、今はリビングにいる。運ぶ間舞さんはずっとぐったりしていた。彼女のことは気になるが知っておきたいことを整理して確認するのも重要だ。


「いつもこんなことしてるんですか」

「毎日じゃないわ」


 じゃああるにはあるのか。


「それも終わりですか?」

「だったら良いんだけどねー。犯人を見つけなきゃ」


 犯人?


「あの女子高生に仲間でもいるんですか?」

「通常、光彩が集まったって人の姿になることはないのよ」

「じゃあ誰かがやったってことですか?」

「そうね。学校が光彩だらけでひどい目に遭ったでしょ?」

「遭いました。一言言って欲しかったです」

「耳で聞くより直接体験した方がいいと思ったのよ。ごめんね」


 適当だなー。まあ、学校に行ったらどうなるか聞かなかった俺も悪いっちゃ悪いんだけど。


「それで質問なんですけど、どうして頭痛が治まったんですか?」

「体が光彩の量に慣れたからよ」


 慣れるものなのか?


「高山病みたいなのを想像してくれればいいわ。慣れてしまえばどうってことはないの。ただ、久弥君の場合人より光彩に敏感ってのもあるかもね」

「舞さんは俺に光彩を分けたって言ってました。それと関係あるんですか?」

「かもね」


 そんなもんか。いまいち理解できない。話を続けよう。


「保険医に最近学校で頭痛の生徒が増えたって聞きました」

「光彩による頭痛は見える見えないに関係ないし個人差が大きいから関係あるかもしれないわ。光彩は人が集まるところに多いの。学校みたいな場所は特にね。大きな光彩があったでしょ」

「ありました。あれが他の学校にも?」

「今は無いわ。このあたりにあった光彩は今全部あの学校に集まってるの。学校とその周りでしか見なかったでしょ?」


 確かに家の周りじゃ光彩は見えなかった。はっきりと見えるようになったのは学校まで後数分って距離からだったな。


「やったのが犯人だと?」

「私達はそう思ってる」

「そんなことできるんですか?」

「あの学校の光彩は異常よ。元々光彩が多かったけど去年の年末辺りから急に増え始めてね。今じゃ自然に存在する量を超えてしまってるわ」


 ここまでは真面目な口調だった。

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