episode.12
走り疲れ、家へと帰宅すると、時刻は既にてっぺんを超えていた。
どうやら三時間近く外を放浪としていたらしい。
茶の間の電気が消えている事から皆んなはどうやら眠りに着いたようだ。
三時間走り続け、喉が渇いた俺は音を立てないよう台所にある冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫の中にある麦茶を取り出すと、不意に冷蔵庫から漏れ出す光の先に人の影が映ったのが見えた。
慌ててその人影の方に顔を向けると、そこにいたのは台所にある椅子に腰掛ける鈴華だった。
「後一時間しても戻ってこなかったら探しに行くところだった。本当にさとちゃんは皆んなを心配させるのが好きなんだね」
そう意地悪に告げてくる彼女の声色はどこか怒っているように聞こえた。
「ごめん……。遅くなった事は謝るよ」
そう言った俺に鈴華は無言で額にデコピンをくらわせてきた。
「イタッ……」
容赦のないその痛みに耐える俺は必死で声を抑えた。
こんな形で鈴華に怒られた経験のない俺は、彼女をどう宥めていいのか分からず、どういう事か手元にあった麦茶を彼女の前に差し出し、
「麦茶……、飲む?」
と、なんとも夏のCMピッタリなフレーズを口走り、今できる精一杯の笑顔を向けた。
そんな俺の行動に鈴華は呆れてため息を付いたと思うと、「飲む」とだけ答え、相変わらず不機嫌なまま、グラスを二つテーブルに準備しえてくれた。
台所の電気だけを付け、二人テーブルを挟んで座ると、相変わらず機嫌の悪い鈴華にどう声を掛けていいのか悩んでいた。
怒っている彼女に下手な事を言わないよにしようと、黙って麦茶を口に含む。
「ナナさん……、どうだった……?」
「ブッッ……!」
突然の彼女のその問いかけに俺は思わず口に含む麦茶を吹き出してしまった。
自分の吹き出した麦茶を近くにあった台拭きでふき取ると同時に俺は答えた。
「どどどうって、何が? 普通じゃない?」
余りにも動揺を隠しきれていない自分の喋り方に終始自分でも驚いた。
あれ? どうした俺……。走り過ぎて疲れちゃったのかな?
そんな事を思っていると、その姿を見た鈴華はますます機嫌を悪くした。
「もういい! バカ!」
彼女は急に大声を上げると、コップ一杯に入ってた麦茶を一気に飲み干し、「これ、洗っといて!」と言い残した後、母の寝室へと向かって行ってしまった。
急に一人になった俺はどうして鈴華があそこまで怒ってしまったのか分からなかった。
仕方なく俺も自分の麦茶を飲み干すと、鈴華に言われた通りにグラスを二人分洗い、寝室に向かったのだった。
一晩経ち、早朝鈴華と顔を合わせると、昨日怒っていたのが嘘のようにいつもの鈴華がそこにいた。
俺は鈴華になんで怒っていたのか確かめようとすると、その度話をはぐらかされてしまった。
めげずに怒った理由を問いていると、遂に鈴華は「くどいっ!」と言って、また不機嫌にさせてしまった。そんな状態になってしまった彼女にこれ以上何も聞けず、この事は有耶無耶になってしまったのだった。
それから日が流れ、鈴華が過去の世界に来てから一週間の時が過ぎた。
その間は何て事のない日々を過ごした。
俺がもう一つの未来で叔父さんに仕込まれたラーメンを皆んなにお披露目したり、母や鈴華と二人で何処かへ出掛けたりと本当にたわいもない日々を送っていたのだ。
唯一、今までとは違うことを上げるとしたら、母がなぜか時折、しおらしくなったと思えば凄い距離感で愛想を振りまいてきたりと、俺への対応が少しずつ変わって来たことだろうか。
自分もそんな母に対して、なぜか胸が苦しくなったり、少し遠ざけてみたりと自分でもよく分からない感覚にとらわれていたのだった。
そんなこんなを繰り返し、もう時期は八月の下旬に差し掛かっていた。
不意に朝のニュースを見ていると、どうやら大型の台風が接近しているという事が分かった。
台風は今晩にもこの町に直撃し、明日の昼ごろには抜けると言う。そんな台風に向けて一家総出で台風防衛の為の準備を整えていた。
お昼時、既に雨が強く降り始め、お店は客も来ないだろうと言うことで休業。
備えの準備を終えた俺たちは居間に集まってダラダラと過ごしていた。
天気は大荒れだが、俺は家族団欒のその光景に何処か暖かい物を感じていた。
そんな暖かい空間に包まれていた俺は不意に眠気が襲って来たのを覚えた。
普段はこの時間眠くはならないのだが、今日に限ってはどうも耐えられそうに無い。
そう思った俺は、「ちょっと眠いから、寝室行くね」と言い残すと居間を後にした。
状況も状況なので、俺が昼寝をしに行くことを誰も気に留めなかった。
寝室に着くと、俺は倒れるように眠りに着いた。
その眠りの中、俺はいつか見たあの夢の中にいた。
それは俺が幼い頃、年齢で言うとおそらく四歳くらいといったところだろうか。
そんな幼い俺は母、もといい大人の七海の膝の上でとある話を聞いていた。
「早く続き話してー」
「本当に悟はこのお話が好きだよね。ママは早く悟に思い出して欲しいんだけどなー」
そう言って母は物語の続きを語ってくれた。
『仲睦まじく暮らす少女達でしたが、その生活は永遠には続きませんでした。それは急に起こったのです。嵐の終わり、少女達との世界を繋ぐ扉が壊れてしまったのです。それから三日後には未来からきた少年と少女は帰らなくてはいけなくなってしまいました……』
「えー、やだ! 帰るのやだよ!」
「そうだね。ママも寂しいよ……。でもね、二人には待ってる人がいるの。未来で待っている人達が……。だからね、しょうがない事なんだよ。それに必ずまた会えるから……」
そう言った母の言葉は優しくそれでいて何処か切なく、今にも泣き出しそうにしていた。その母の様子を感じ取ったのか、俺は母の代わりを務める様に泣きじゃくったのだった。
母はそんな泣きじゃくる俺を必死にあやすと、ポツリと呟いた。
「待ってるから……。待ってるからね、悟……」
それは今彼女が抱えている、“悟”ではなく、どこか遠くにいる他の誰かに向けていった様に感じた。
そして俺は泣きじゃくる自分の声と共に目を覚ましたのだった。
気づけば、辺りは暗く、自分の部屋の天井が目の前に見えていた。
今の夢って……。
そんな事を思っていると、俺は二つの感覚に気が付いた。
一つは俺の頬を伝う涙。夢の中の幼い自分が泣いていたからか、シンクロして自分も涙を流してしまっていた様だ。
もう一つは、俺の頭を優しく撫でる温かい手の温もりだった。
そこには座りながらに眠っている母の姿があった。
「母さん……?」
そんな俺の呼びかけにビクりと身体を震わせる母。
「うわっ⁉︎ びっくりした!」
そう言った彼女は俺の頭にあった手をすぐさまどけ、俺の顔を確認したかと思うと目に涙を浮かべてた。
「どうしたの?」
「……バカっ! 何で何回も起こしたのに目開けないのよ! 心配したじゃない……」
彼女が何でそんなに動揺しているのか不思議に思い時計に目を向けた。
その時計の針は三時丁度を指していた。
「あぁ……、もしかして、俺……、半日寝てた?」
「そうよ! バカ! 寝すぎなのよ! バカ!」
バカと言われる度に引っ叩かれる俺は只々謝る事しかできなかった。
「で、何の夢見てたのよ……。凄いうなされてたし、泣いてたみたいだけど……。怖い夢でも見たの?」
彼女のその問いかけに、ハッとさっき見た夢の事を思い出す。
「そうだ、俺……、母さんの夢を見たよ」
「……へぇー。そうですか、そうなんですか……。私の出る夢はそんなに怖いんですか!」
「イテテテテテッ! 違う! 違うって母さん待って! 怖い夢じゃない! 怖い夢じゃないから!」
問答無用に頬を引っ張られている俺は必死に弁明をすると、「本当……?」と上目遣いで聞いてくる母。
「ああ……。俺が小さい頃の夢だったよ……。前に話した物語を母さんから聞いている時の夢……」
「じゃあもしかして、物語の結末……、分かったの?」
「いや、えっと……、最後までは聞けなかったんだけど……」
俺はそう言うと、夢の中で母から聞いた物語の内容を思い出した。
そうだ。嵐の後、その三日後には帰らなくちゃいけないって……。
俺は急いで立ち上がり、窓を開けた。
そこにはもう雨一つ降ってなく、空には満天の星が見えていた。
「……台風、もう過ぎたんだよね」
「うん……。夜の十時くらいにはもう風も止んでたし……」
その言葉を聞くと俺は慌てて着替えを始めた。
「急にどうしたの⁉︎ 何処かへ行くつもり? こんな時間に?」
「今すぐあの祠を確認しに行かないと! もしかしたらもう……」
「ちょっと待って! 祠って、裏山に行く気⁉︎ だとしたら待ちなさい、裏山は今、雨で土砂崩れも起きてて危ないってお父ちゃん言ってた。だからダメよ!」
そう言って必死に俺を止めようと腕を引く母。
「未来に帰るためにどうしてもあの祠を確認しに行かなくちゃいけないんだ! だから行かせてくれ、母さん!」
そう伝えると、母は悲しそうな顔をして俺の腕を離した。
俺は彼女の行動に分かってくれたと思い、部屋を出ようとした。
「待って! 私も一緒に行く!」
そう言って真っすぐに俺を見る母を俺は止めなかった。
先に準備を終えた俺は玄関前で母が来るのを待っていた。
数分後、準備万端で出てきた母と一緒に鈴華が現れた。
「未来に関わる事なんでしょ! なら私も行くに決まってるじゃない!」
そんな彼女も交え、三人で裏山へと向かうのだった。
裏山へ向かう道中で、俺が見た夢の話、それとまだ伝えていなかったタイムスリップの条件についてを母と鈴華に話した。するとその話を聞いた鈴華は言った。
「嵐で祠が壊れるのはわかるけど、どうしてその三日後なのかしら? 普通祠が壊れたらその時点でアウトなんじゃ……。それかまた三日後に何かあるのかな?」
言われてみれば彼女の言う通りだ。なぜ三日後なのか。
その答えは今の俺たちには分からなかった。
そんなこんなで裏山にたどり着いた俺たちは一同その光景に驚愕した。
「なんだよ……、これ……」
俺たちの見た裏山は、数時間前に通り過ぎた台風によって、土砂崩れなどを引き起こし、大分変わり果てた姿となっていた。
それでも今まで通ってきた記憶を頼りに祠のある場所へと足を進める。
変わり果てた道を進み、そろそろ祠があってもおかしくないだろう所まで歩いてきたが、どこにもそれらしき物は見当たらなかった。
次第に日が昇り始め、日の出が見えたその時だった。
さっきまでは暗くて気づいていなかったが、そこには俺が何度も落ちた崖が目の前に変わらずそびえていた。
どうやらここは土砂くずれの影響を受けなかったようだ。だが、今俺たちのいる周りには祠の影も形も無い。
それは俺たちに過酷な現実を思い知らせた。
俺たちのいるこの真下に祠がある事を……。
「嘘だろ……。こんなの、一体どうすれば……」
その現実を受け止めきれない俺の様子を見て、二人は駆け寄ってきた。
二人に事の状況を説明すると、驚きはしたが、至って冷静だった鈴華が言った。
「なってしまったものはしょうがないわ。それにさっきのさとちゃんの話を聞く限りでは、三日後にはどうにかして帰らないと行けないって。だからまだ手はあるはずだよ」
そう言った鈴華の目は淀みのなく透き通る真っすぐな眼差しをしていた。
それと同時にあの夢で母が口にした言葉を思い出す。
『待ってるから……』
……そうだ。俺には未来で待っててくれる人がいる。ここで諦めるわけにはいかないんだ。
そう思うと俺はまた前を向いた。
そんな中、母だけが終始暗い表情を浮かべていた事に俺だけは気付いていた。
俺たちが自宅に戻る頃には既に朝の六時を回っていた。
台所には朝食の支度をしている祖母の姿があった。そんな祖母が俺たちに気付くと、どこかホッとした顔を見せた後、直ぐに表情を曇らせた。
「あなた達、こんな時間まで何やってたの! 悟ちゃんの様子を見に部屋に行ったけど誰もいないし、七海の部屋も覗いたら二人ともいないし……。もう……、帰っちゃったのかと……」
そう言って涙ぐむ祖母。
「ごめんな、婆ちゃん。心配かけて。でも、何も言わずに帰ったりしないから……」
そう声を掛けると、祖母は優しげに微笑んだ。
「皆んな泥だらけじゃない。お風呂沸かしてあるから入ってらっしゃい」
それから俺たちは祖母に言われるがまま風呂に入った。
俺たち三人が入り終わる頃には、祖父も起きてきていた。
「良かった……。昨日は全然目を覚まさないから心配したんだぞ!」
そう言った祖父は俺の頭をワシワシと無造作に撫でてきた。
俺はその感覚を大事に思いながら祖父の大きくも硬い手のひらを堪能したのだった。
全員が食卓に着くと俺から現在の状況とこれからの事を二人に説明したのだった。
「そうか……。遂に来ちまったんだな。その時が……」
いつも陽気な祖父だが、俺達が帰らなくてはいけない事を知ると、とても寂しそうな表情を浮かべた。
その時、不意に茶の間にあった電話が鳴り出した。
慌てて祖母が電話を取りに出ると、しばらくして電話を終え、慌てた様子の祖母が戻ってきた。
「大変よあんた。昨日の台風の件でこれから臨時で町内会議を行うみたいなの」
そう聞くと、祖父と祖母はそそくさと朝ごはんを食べ、町内会議へと向かったのだった。
「とにかく地中に埋まった祠を掘り起こすしか無いと思うんだよ」
祖父と祖母が家を出た後、そう俺が切り出すと、二人もそれに賛同した。
「後は何で三日間しか猶予がないって事なんだけど……」
ずっと疑問に思っていた『三日』という言葉。その意味を俺たちはまだ分からないでいた。
だが、それからすぐにその意味を思い知らされる事となったのだ。
俺たちが話し終わってから一時間程が過ぎた頃、町内会議から祖父と祖母が帰ってきた。
その二人を見ると、どうも顔色が悪い。そんな状態で祖父は口を開いた。
「お前らから聞いてた通りあの裏山、土砂崩れがひどいらしくてな……。二十八日、つまり四日後の昼からあの山一帯を整備する事が決まった」
その言葉で全てが繋がった。
四日後の昼にはあの祠もろとも裏山の整備が始まってしまう。
タイムスリップするには祠がある事、そして雨が降った後の綺麗な星が見える夜である事が今分かっている条件だった。つまり今日を入れて三日後の夜までに祠を掘り起こし、あの崖から落ちないと俺たちは未来に帰る事ができないということだ。
だとすると時間が無い……。
祖父からその話を聞くと、俺は鈴華と母の二人と顔を合わせ急いで準備することにした。
「祠、掘り起こさないと。三日以内に祠見つけないと俺たちは未来に帰れないんだ。だから急いで探さなきゃ」
そう俺が言うとそれを聞いた祖父が立ち上がった。
「そういう事なら俺も行く。色々準備してから行くから先に行ってろ」
「⁉︎ 爺ちゃんいいのかよ。お店はどうするんだ?」
「孫の一大事に助けてやらないジイジがどこにいるってんだ!」
祖父が放ったその言葉にはどこか懐かしさを感じた。
それはもう一つの未来に行った時に健三叔父さんが言ってくれた言葉だった。
やっぱり親子なんだね……。
祖父は祠の場所を知らないので母を案内役として俺と鈴華で先に裏山へ向かったのだった。
スコップや軍手などを持って、祠があるだろうと思われる位置まで来た俺と鈴華は一心不乱に祠が埋まってそうな場所を掘り始めた。
作業を始めてから三十分、鈴華が俺へと声を掛けた。
「今の内に聞きいておきたい事があるんだけどさ……」
「……? なんだよ?」
「祠……、見つかったら未来に帰ることになるんだよ。それでもいいの?」
彼女の声は何処か寂しそうにそれでも聞かずにはいられないという感じだった。
「……確かに、鈴華には悪いんだけど、ついこの間、と言うより昨日までは帰らなくても良いんじゃないかって……、そう思ってた」
そう言うと鈴華は作業していた手を止めて悲しそうな顔で俺に目を向けた。
「でもさ……、待ってるって……、待ってるって言ったんだよ、母さんが……」
そう言って俺は遠くの空を見た。
「俺には未来で待っててくれる人がいる……。俺はそんな母さんと鈴華と、俺たちのいる未来で、一緒に生きたいんだ……」
俺がそう告げると、鈴華は「そっか……」とだけ答えて笑ったのだった。
そんな話をしていると、遠くの方から俺たちの事を呼ぶ声が聞こえた。
「悟ーーーー。鈴華ーーーー」
その声のする方に目を向けると、驚くことにそこには祖父だけでなく、何十人もの大人の人を引き連れる母の姿があった。
「一体どうしたんだよ⁉︎」
「あのね、未来の事は内緒だけど、お父ちゃんとお母ちゃんが町内に住む大人の人達を集めてくれたんだよ」
そう聞いた俺は改めって集まってくれた人達を見回すとそこには見知った人たちが、ちらほらといた。
皆んな俺たちの為に力を貸してくれるんだと思い、少し泣きそうになった。
そんな俺の背中を思いっきり祖父は叩いた。
「もう一踏ん張りだ! 悟! これがお前にしてやれる最後の仕事だ」
そう言って微笑んだ祖父の姿はとても大きく、俺の記憶に深く刻み込まれた。
それから総出で祠探しに取り掛かった。
途中、祖母と町内に住むママさんの方々が差し入れで大量のおにぎりとお茶を持ってきてくれた。その時に、祖母が、「ごめんね、お婆ちゃん、こんな事でしかサポートできないけど」と言ってきたが、俺は今までにも何度も婆ちゃんには助けられた。
今回のこのおにぎりも、力尽きそうな俺にはすごい助かる。
俺はそんな素直な気持ちを祖母に伝えると、祖母は涙を流しながらにおにぎりを俺に口に押し込んできた。
そんな様子を見ていた周りの皆んなも笑って、少し場の空気が和んだ気がした。
作業開始から大分時間が経ち日が暮れようとしていた。
もう今日はダメかと、そう思われた時だった。
「あったぞ!!!!」
そんな声が聞こえ、一目散にその場所に駆け寄ると、祠の屋根らしき部分が顔を出していた。
その後は何人かの大人たちが一斉にその周りを掘り続けた。
そして、程なくして俺たちの探し求めていた祠が発掘されたのだった。
「良かった……。あった……」
俺が祠を確認し安心し切ると、急にドッと疲れがきて俺はその場に座り込んだ。
そんな様子に気づいた母は俺の元に駆け寄り心配してくれた。
そんな母に「大丈夫」と伝えると、祠近くの大人達に頼み、祠を元の位置ほどに移動してほしいとお願いした。
大人達は「お安い御用」と言って元の位置まで祠を担いで運んでくれた。
予定していたよりもかなり早い段階で祠を見つける事ができた。
それはここに来てくれたみんなのお陰だ。
本当に俺はいつも色んな人に助けられてる。
その気持ちを手伝ってくれた人達に伝えるとその日は解散となった。
その日の晩、なぜか祖父と祖母が何かモジモジしている事に気付いた。
「どうかしたの二人とも?」
「しっかり言いなさいな! あんたが言ったんだろ!」
「うるせぇ。お前だって言ってたじゃねーか」
そう言って、何やら二人仲睦まじく夫婦喧嘩を始めた。
こっちに来てからこの光景は何度も見ていた。それももうすぐで見れなくなると思うと、熱いものが込み上げてくる。
そんな事を思っていると、意見がまとまったみたいで、祖母から話し始めた。
「あのね、悟ちゃん……。今日、うちらと一緒に寝てくれないかい?」
その言葉に俺は、これが最後の祖父母孝行になるんじゃないかと思い、笑顔で
「良いよ。一緒に寝よう。爺ちゃん、婆ちゃん」そう告げると嬉しそうにしてくれた。
その晩は疲れていたが、爺ちゃん、婆ちゃんと三人でいる最後の時間だと思い必死に起きていたが、途中力尽きてしまい俺は意識を失った。
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