第13話 入れ替わった令嬢と小作人の娘
孤児院にいたオルガは幼い頃は容姿から「やんごとなき身分」から捨てられたと噂され、悲しい思いをした。ただ前の孤児院長や教会の神父から励まされ、なんとか成長することができた。8歳の時、いきなり前の孤児院長をしていたハウザーに遺棄された時に一緒にあったという剣を与えられ、女なのに剣術を覚えさせられた。おかげでいまでは行商の旅に自衛の手段として役に立っているが。
「オルガ様も王宮でお伽話を聞かされて育ったのですね、なんか意外ですわ」
ヒルデは少し驚いた表情をしていた。いくら今の王室は民に寄り添う事を標榜しているとはいえ、子女も同じとは思ってもいなかった。特に男にだらしくなく浮世離れしすぎた奔放なオルガがである。
「そうなのう? そう思われても仕方ないわね。なんか色々やらかしてしまったからね、わたし」
オルガは日記のおかげで自分と入れ替わったオルガのある程度の心の闇を知りつつあった。オルガは王族ではなく自分の意志で自由に旅をする人生に憧れていたようだ。そして男どもと一時的な衝動で非難されて当然な破廉恥な事をしていたことも。
その日は夕方まで予定が組まれていなかったので、オルガは自室で一人で過ごす事にした。外の陽は傾き夕暮れの色彩へ徐々に染まりだしていった。オルガの日記を読みながら。実はオルガも孤児院にいた時から日記をつけていたのだが、もしかすると自分に伯爵夫人の人生を押し付けたオルガが読んでいるのかもしれないとおもうと、おかしかった。あの悪役令嬢が! いまごろ何をしているのだろか! さきほどヒルデがいた時に、孤児院で年下の孤児に子守唄代わりに聞かせていた童話を思い出していた。悪い令嬢がひどい目に遭う話を。
その話は「入れ替わった令嬢と小作人の娘」で、勧善懲悪モノだった。それはオルガのようにワガママで男好きで酷い性格の令嬢と、心優しいけど何も持たぬ小作人の娘が、天使の気まぐれで入れ替わるという話だった。性格の悪い令嬢が罰としかおもえない酷い目に遭い、深く反省するが元に戻れない結末だった。
今のオルガが気になるのは、令嬢になった小作人の娘の方だった。話の中で彼女の運命は殆ど語るべき事がないのだ。戻らなかったのだから令嬢として人生を過ごす事になったはずだが、最後の方で馬車に乗っている娘を妬む元令嬢の描写しかないので、幸せなのか、それともが分からないのだ。
「あの話はたしかハウザー夫人から聞いたのよね。知っているのなら教えてもらえばよかったわ。ヒルデの・・・」
オルガは「入れ替わった令嬢と小作人の娘」の登場人物のヒルデと自分を重ねていた。貧乏な娘がいきなり貴族になったとしても幸福になれるわけない、はずだから。でも・・・
「わたしっておかしいかしら? 好きでもない、身体を奪った男が恋しいなんて・・・なんか・・・」
恋なんて事に憧れたことは無く、一人で生きていく決意をして・・・何故か拒絶されたが修道女になるために「純潔の誓い」をしたはずなのに、あの男の事が恋しくなっていた。
「コンラート様、なにをされているのかしら」
オルガはこれが恋なのかと思った。でも、順番が逆じゃないか? そう悩んでいた。
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