デッド・ディスペアスクール

赤赤サササ

第1話 死に際


 彼はとても優しい先生だ。


 生徒からも人気があり、教師としても優れている。


 しかし、彼は過去に大きな過ちを犯したのだという。その過ちを知っているのはほんの数人らしいが。


「先生! 今日の授業は何ですか?」


 この学校は、金曜日の六限目に学級授業がある。なので、こうしていつも、先生に授業内容を決めているのだ。


「んー、じゃあ死についての授業をしようか」


 皆は、「死?」、「なんか暗いねー」と囁いて反応する。

 

「では、話を始めよう。皆は死にたいと思ったことはあるか。大抵の人はあるが、無い人もいるだろう」


 生徒は問いに対する有無を声に出して反応したり、ひそひそ隣人と話したりしていた。


 「だけど、死にたいといっても実際に行動を起こすのは容易たやすいことではない。だって本当は死にたくないから。誰だって死ぬことには恐怖を持つだろう」


 生徒は「確かにー」と自分を省みてそう言う。


 「ただ、本当に死にたいと思った時。死ぬ恐怖が無いくらい死にたいと思った時。その時人の脳は、死んだら楽になれる、解放されるといった感情になるだろう。こうなってしまったらもう取り返し用がつかない」


 そう彼が語ると一瞬教室内が静まり返った。

 

 しばらくして一人の生徒が、彼にこう聞いた。

 「そうなった場合の対策法とかはあるのですか?」


 それに対し彼は、

 「自分ではほとんど対処できないね。漫画やドラマみたいに、親友や警察が止めてくれたら別だけど」

 と考える間もなく言った。生徒たちは下を向いて黙っていた。


 すると彼は暗い生徒たちに、

 「でも、そうならないための対策法ならあるよ。今回はそれについて授業しよう」

 と言い、その後に少しニヤリと笑った。



 ◼︎◼︎◼︎



 ああ、死にたい。


 そう、僕は死にたいのだ。


 自分の犯した事が受け入れられず、この世から消え去りたいのだ。


 つまり、僕は何かを犯した、やらかしてしまったんだ。そして今、その大きな罪悪感が僕を苦しめていた。


「僕はこれからどうしていけばいいのだろう」


 ため息をつき僕はそう呟いた。その言葉はもう絶望でしか無かった。


 午前0時。僕は頭を抱えながら静かな街をてくてく歩く。辺りはポツポツと残業帰りの人が見える。まあ、この時間帯じゃあ人も少ないな。


「もう、いっそ……」


 僕は、六階建てのとあるビルに入った。中には誰もいなく、少々 蜘蛛くもなどの虫が動く音が聞こえた。不気味だ。


 ビルに入った僕は屋上に向かって階段を上り始めた。


 コツ、コツ、コツ。階段を上るたびに鉄の音が響く。六階建てのため、屋上まで結構段がある。が、僕はそれよりも別のことに意識をとらわれていたため、不思議と疲れなかった。


 そして最上階に辿り着いた。僕は屋上の扉を開けた。少し標高が上がったせいか、少々風が強かった。


「ううう、寒い」


 スマホで気温を確認した。気温はマイナス二度。これは寒い。


 僕は徐々に街の方へと足を運ぶ。一歩、また

一歩と。それにつれて心臓の鼓動が早くなり、恐怖感もより一層と出てくるのが分かる。ただ、僕は恐怖心も感じていたが、それ以上にこれで楽になれるという安心感の方が強かった。


 僕は屋上のパラペットに上った。そして徐々に前へと体を傾けていった。


 「本当に、これでいいのだろうか」


 「もっと違う選択肢があったのではないか」


 そんな言葉は僕の脳には無かった。僕の脳にあった言葉はただ一つ。


 自殺して人生をやり直す。自殺をすればきっと楽になれる。


 徐々に体が前に倒れていく。はぁ、僕はここで死んでしまうのか。


 そして、僕はそのまま地面に向かって落ちていった。


 はずだった。


「なっ、こ、これは!」


 目が覚めた僕はすぐ辺りを見渡した。当たり前だ。死んだ後の世界なんて生きている限り知ることは出来ないからな。


 だが、それは死後の世界とは大きくかけ離れた光景だった。何故って……。


「なんで僕、こんな中途半端に止められてるの!」


 そう、僕はビルから落ちていた死んだ。はずだったのに今、こうして地面と向き合って体が宙に浮き止まっていた。つまり、落ちている時に何かに止められたのだ



◼︎◼︎◼︎



 「起きたか、希望を失いし者よ!」


 僕が身動きを取れなくなって数分後。何処からか若い男の声に話しかけられた。

正直状況がつかめずとても混乱していた。


 「起きたな。よし。お前は自殺をしようとしたな?」


 若い男は僕が混乱していることも知らずにそう質問してきた。何だよいきなり。初対面の人にどういう質問してるんだよ。まあ実際対面もしてないんだけど。


 そう思いながら僕は首を縦に振った。


 「そうかそうか正直者。そんな正直者には二つ選択肢を上げてやろう」

 

 何? 選択肢? どういうことだ? というかこいつ、喋り方がえらそうだからちょっとイラッとくるんだよなぁ。


 僕は苦笑した。


 「選択肢って何だよ。大体、僕の選択肢は一つだけだ。死。そう僕は誓ったんだ。だからここから飛び降りることができた」


 すると若い男がハハハと高笑いをした。


 「面白いじゃないか。では選択肢を言おうではないか」


 だから選択肢なんて……。


 僕はそう思いながらもちょっと期待していた。


 「一つ目はお前が望んでいる死だ。これを選んだ瞬間、時は再び動きそのまま頭から落ちて確実に死ぬだろう」


 ほぉ。死の選択肢があるのか。ちょっと意外だ。


 「で、もう一つは……。分からない。だが、確実に死ぬわけではない。こんなにも若く死ぬのは多分天国に逝ってからもずっと後悔すると思うぞ。


 「具体的には教えてくれないのかよ!」


 僕は少々偉そうに若い男に訪ねた。


 「それは、行ってからの、お・た・の・ し・み」


 僕はため息をついた。僕は落ち着いてもう一つ質問した。


 「天国って、どんなところなんだよ」


 そう尋ねると、若い男はうーんと考え込み、しばらくしてこう言った。


 「ほんとは生きている人に天国の様子を教えちゃいけないんだけど、今回は特別にちょーーーっと天国について教えるよ」


 僕は全力で耳を傾けた。天国の様子なんて、生きている限り知ることなんて無いのだから。


 「天国はその名の通りの天国さ。何かを望めば必ず叶えてくれるし、死んだ人ならばともに話すこともできる」


 なんだ、意外といいところじゃないか。これなら死んでも楽しくやっていけそうだな。


 「でも、天国はルールが厳しくてね、一度ルール破ったらイエローカード、二度目だとレッドカードで、地国に強制移住させられるんだよ」


 「そのルールってどれくらい厳しいのですか?」


 「そうだなー、簡単に言ったら、世界のあらゆるマナーを合体した感じかな。豚肉と牛肉は食べられないし。あ、鶏肉は食べられるよ」


 なるほど。つまり、天国に行っても楽に生活できる保証はないってことか。


 「では、もう一度問うよ。君は死かもう一つ、どっちを選ぶんだぃ?」


 僕は考えた。天国でゆったり過ごすのもいいけど、もう一つの方もとても気になる。僕は最後、若い男に訪ねた。


 「そのもう一つ、というのは、もし死んだとして、天国に行けるのか?」


 若い男は即答で、

 「ああ、もちろん」といった。


 この返答で僕の答えはまとまった。


 「じゃあ……」


 「もう一つの方でお願いします!」


 僕はアスファルトに向かってそう答えた。

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デッド・ディスペアスクール 赤赤サササ @rikuto089

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