第18話 新キャラ載せの18皿目

「何でついて来るんだよ。お前、美味先輩と総長嫌いなんだろ」


カゴを両手に廊下を歩く道矢の後ろを、ベヤングをすすりながら巳茅が続く。


「あったり前でしょ! でもまあちょっとね、うしし」


文乃の研究室は、校舎中央の一階にある理事長室の下、つまり地下にある。

校舎三階左端にあるキッチンからは結構歩かなければならない。

階段を下り、一階の長い廊下を歩く頃には二人の額に汗が浮かんでいた。


「あっちーなあ、あー、冷え冷えの麦茶飲みてえ」

「ふへへ、この程度で情けな~。三十五度の温室で三十分我慢する訓練受けたあたしからすればヌルイっちゃよ」

「何か語尾おかしいぞ、暑さでやられたんじゃないのか」

「あ~! 今こういう言い方はやってるの知らないんだ~? お兄ちゃん恥っずかし~っちゃよ?」

「知らなくて結構、ケッコッコー」


暑さは確実に兄妹を蝕んでいる様だった。


そんな気怠い道矢の目に、廊下の向こうから歩いてくる、モスグリーンのサマースーツに身を包んだ女性が映る。


徐々に距離が縮り、女性の詳細な姿が確認出来た。


スレンダーなスタイル、背丈は百七十ちょいある道矢とほぼ同じ、年は二十過ぎであろうか、ブ厚いメガネをかけ、後ろに束ねられた髪は上向きにされている。


――――あの口、天然ボケが入った……ん? おお!?―――― 


口の形から性格分析する道矢の目が思わず胸に引き寄せられる。

ちょっと刺激的に開かれた谷間はくっきり陰影がつく程で、文乃と同等のFカップはあった。


その女性が道矢とすれ違う直前に立ち止まり、

「あのぉ、ちょっとすみませぇン、歌津文乃さんという方のですねぇ、研究室教えてくれませんかぁ?」

と尋ねてきた。


「え? んんー……」


初対面の人間に、秘密の研究室を勝手に教えるのはどうかと言い澱む。

そんな道矢の後ろから、

「あ、巳茅です。今廊下でメガネの女の人から研究所教えてって言われてるんですけど、わかりますか?」

とスマホで通話する声。


「はい、そうですそうです……ありゃまあ、そうなんですか……はい、はい、わかりました。そうします」


暫し通話した後、トーマスフォンを仕舞う巳茅。


「お兄ちゃん、その人文乃先輩のお客さんだよ。研究所まで案内して欲しいんだって」


それを聞いたスーツ姿の女性は、

「そうなんですぅ。遅れましてぇワタシィ、緋月あかり(ひづきあかり)と申しますぅ。歌津文乃さんと会う為にぃ、ここへ来たんですけどぉ、方向音痴で迷ってしまったっていうかぁ。てへっ!」

と照れ笑いを浮かべながら自分の頭をコツンと叩く。


道矢はちらりと巳茅を見た。

微笑んでいるが薄く開いた目はまったく笑って無い。

これはよろしくないと思った道矢が空気を変えようと挨拶する。


「あ、鳴瀬道矢っていいます。そしてコイツがイテッ!」


向けられた手を弾く巳茅。そして、

「妹の鳴瀬巳茅です」

と僅かに頭を下げる。


「いやぁぁん、キャッワイイィィ! こんなキャワイイハンターさん初めて見たぁ、もうぅぅ、食べちゃいたいぃぃン!」


お花畑な口調とは裏腹に、驚くような素早さで巳茅を抱きしめるあかり。


「ふぎゃ! おにいひゃん、たしゅけて!」


Fカップの谷間に顔を埋められた巳茅が、食べ終えたベヤングを入れたポリ袋を振り回し助けを求める。


「キャッワイイィ! キャッワイイィ!」


エメラルド色のネイルが際立つ両手で、巳茅のショートツインテールを牛の乳絞りの様に揉みしだく。


「ちょ、ちょっと、止めてくださいよ!」


この暑さでおかしくなったかと思う様なハイテンションにビビリつつ、あかりから妹を引き剥がそうとする。


そんな道矢の視界の端に数人の生徒が映った。


「あ、ちょっとー、助けてくれ! 変な人に妹が捕まっちゃって」


その声に、ホルスターを腰に下げた生徒三人が駆け足で向かってくる。

助かった、そう思い一瞬目を閉じた道矢の耳に、ドサッ! という音が響く。


目を開けると、生徒達がうつ伏せに倒れている。

そして倒れた生徒達の背後には小さな人影。


道矢は目を凝らした。


人影は十歳前後の、白い半袖シャツに黒いスパッツ姿の少女であった。

前髪ぱっつんなロング黒髪、大きなタレ目にはバンビの様な瞳、小さな口には笑みが浮かんでいる。

何かをなぎ払ったかの様に、片手を真横に伸ばしている事から少女が三人を倒したのだと道矢は思った。


――――この口、世間知らずのお嬢様タイプ。だけどその分何をするかわからないタイプ……――――


「ちょっと、何かヤバ……」


道矢がいい終える前に、小さな人影が消えた。

いや、消えた様に見えただけであった。


いつの間にか自分のすぐ側に微笑を浮かべた少女が立っており、こちらを見上げていた。


すっと手刀を目の前に突き出す少女。

それは美味と総長が見せた殺気と同質の気配を放っており、瞬時に恐怖に支配された体はガクガク震え出し、手にしたカゴを床に落としてしまう。


「三ツ星美味の所へ連れて行きなさい」


笑いを含んだ声で少女が命令する。



つづく

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