第20話 D伯の経営する会社
なるほどね、と鷹はオリイが持ってきたデータをスクリーンに浮かべながら、うなづく。
あの後、オリイは女史が言うように、ディックの資料整理を手伝っていたのだ。彼が集めたLB社に関する情報をとりまとめ、分類整理する仕事。
その時に、同じデータを丸ごとメ・カに写し取ってきたのだ。それ自体は、別段手にすることで違法な情報ではない。ただこれだけの情報を、雑誌社という肩書きの無い人間が手に入れようと思うとやや面倒なものが多かったのだ。
「幾つかの時代に、彼は不明点があるね」
オリイはうなづいた。現在に至るまで、殆どの年についてディックは情報を収集しているのだが、数ヶ所に空きがあった。
「まずはこのウェストウェストに来てから銀行勤めをしていた期間…… まあ特に書くべき部分が無かったと言えばそれまでだけど」
『友達って誰?』
そう、と鷹はうなづく。
「この『友達』というのが誰なのか、が断定されていないんだよね…… 銀行の関係者なのか、このウェストウェスト星域自体に大きな力を持っているのか、そのあたりがはっきりしない。それにそのくらいの知り合いだったら、データが表に出ていてもいいはずなのに」
おそらくは、この星域全体、の方だと鷹は思う。MA電気軌道は、当初この星域のある会社の子会社として立ち上げられたのだが、最初に社長業を請け負った人物がさほどの器ではなかったため、利益は殆ど無かったのだという。
「MA電気軌道は、当初はD社の一部だった。ということは、D社にとって、中枢に居る人間と考えたらいいのか……」
D社は、D伯の経営する会社だった。
正確に言えば、企業体である。その中には数多くの企業が存在する。ウェストウェスト星域に住む人間は、朝起きてまずD製薬の歯磨き粉を使い、D食品から安価で発売されるパンを食べ、昼ご飯をD百貨店のレストランで食べ、夜は、D酒造の直営店でいっぱいやる。そして風呂にはD化学の入浴剤を放り込み、D寝具の毛布にくるまれて眠るのだ。
D社で無いものを探すほうが、このウェストウェストでは難しい。したがって、LB社がそのD社から派生したものであってもおかしくはない訳である。いや、そう考える方が自然なのだ。
「だとしたら、あのシェドリス・Eと名乗っている奴は、何でそんな名を名乗っているんだろう? 少なくとも、サーティン氏はそんな名を名乗れば、警戒するだろうに」
『警戒』
「そりゃまあ、身内と言っても色々あるだろうけど……」
鷹はひじをつきながら、顎に手をやる。するとオリイはそんな彼をそっと押しのけると、端末に手を伸ばす。何だ何だ、と思いつつ、彼は別の情報に手を伸ばす。画面に映し出される文字の羅列を見て、鷹はうなづく。
「名士の尊卑分脈、か」
オリイはその中からあっさりとD伯の血統を抜き出した。名士というものは、「公式に」存在を許される身内の存在は公表することが多い。
マルタから情報はもらっている。だがそれはダイジェストのようなものだ。彼女は有効な情報を抜き出して送ってくれるのだが、時には、その抜き出す以前の情報が欲しい時もある。
多いな、と鷹はつぶやいた。現在のD伯は齢64。正子として認められている子供の数は13。そしてその子供の子供が、35。庶子が10。その庶子の子供が8。
「……よくまあこれだけ作ったものだ」
子供が生まれにくい星域の出身である鷹は思わずため息をもらす。まあしかし、あの種族がそんなにぽこぽこ生まれていたら、それはそれで始末に困るだろう、と彼は思う。少ないから、寿命が長いのか、寿命が長いから少ないのか。
画面には、その子供や庶子の名前がざっと映し出させる。その中でシェドリス・Eの名を彼は目で追った。
「ふーん…… 確かに彼くらいの年齢だな」
無論この場合、シェドリスを名乗る彼の、本当の年齢は関係はない。あくまで外見の年齢である。現在生存しているなら、27歳。その様に資料からは読みとれる。
『庶子の子供が少ない』
オリイはさらさら、とテーブルに文字をつづる。
「ああ。ま、色々あるんだろ……」
庶子。理由は色々あれど、何度か取り替えられたD伯の正妻以外の女から生まれた子供。その女達が果たして自分の意志でそういう立場になったのかはこの資料からは読みとれない。
そしてその子供達は、庶子の数より少ない。初めから生まれなかったのか、それとも途中で消されたのか。いずれにせよ、良い想像ができない。
そして、シェドリス・Eはその姓が示す通り、庶子の子供だった。
シェドリスの父であるE氏は、ウェストウェスト総合大を出ながら、どうもその後、戦争の方へ自主的に参加したらしく、30代の半ばで消息を絶っている。そしてその後、シェドリスが見つけられたのだが、この母親である女の名前は無い。故意的に削除してあるのは、一目で判る。
そしてシェドリスは、15歳の時にそのD伯宅に引き取られている。だが17歳の時、その消息を絶っている。
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