第四話 天国と地獄
この世界【
彼――鈴木良正はそんな世界の平和主義国ダイアスに、
「国を窮地から救い、この大陸の安寧秩序を守る」
ために、異世界召喚されたのだった。
✣
話題を話の長さから戻して良正の有している力の件だが、彼は【
言の波とはこの国ダイアス独自のものであり、武力でなく言の葉によって問題解決をさせるために使われるようになったものである。
国王ヨーゼフが世に元来あった魔力を、ヨーゼフ自身の魔力特性によって返還して国中で使われるようになった。
端的に言うと、言葉が重要な要素になっており、より良い国するためにヨーゼフが必須と考えた日本の語彙力に相当するものである。
そして、言の波によって生じる魔法的現象を総じて【
言霊は、安易に戦闘利用させないため、言葉に対する深い思想や知識などがなければ効果が真に発揮されない仕様である。
しかし、それはあくまで基本の話。
ガロが騒ぎ立てていた、【伝説の勇者】となると話は変わる。
【伝説の勇者】とは、その名の通り伝説上に登場する人物であり、この世界とは異なる世界からやって来た極めて高い言の波の適性を持つ者とされている。
その特徴はこの国に伝承のある『ドラゴニア創世記』には、こう記されている。
――それは、ニホンなる外界よりこの世に降臨せし者であり、ほとばしる熱情を以て窮地に救いの手を差し伸べる、勇猛果敢な戦士のことである
それにより、この国では伝説の勇者は絶対的な存在として崇め奉り、信仰しているのだ。
気になるその力だが、【称号】によって言の波に大幅な上方修正がかかり、知識や思想の有無に関わらず、放つ言霊は最早チート級の威力を発揮する。
それでも前提として、語彙力に比例して言の波は増大していく仕様。
ゆえに、語彙力のある良正を召喚したのだ。
✣
そんな話のあと、これは聞いておかねればなるまい、と良正は例の性質がチラリズムするような質問をし、
「一体、どうして俺が語彙力ある人間だと解ったんですか?」
この俺の文才が認められたかぁ、それは大変困ったなぁ
そんな自己愛に浸りながら、返答を待つ。
瞳孔をくあっと開き、まるで園児のようなくりくりとした瞳で。
それに対しミスリルは、
「んー、それは……なんででしょうねぇ?」
とポカンとした顔をして聞き返してきた。
あまりの酷さに、良正はフィクションのようにズコーッと前へ転ける。
それを見て、すかさず横にいたガロが割って入り、説明する。
そして、
「それは、貴方様は彼方の世界で『その言葉の使い方、違う』と仰っており、他人にわざわざ指摘なさるということは、それだけ語彙力のあるお方なのだろう、と。それが我等の見解でございます」
と、あっさり答えた。
あ、そういうことね
文才が認められたわけじゃないのね
でも、
そんな淡白なガロと、その話の内容の薄さに良正はほんのすこし苛立ちを覚えた。
――これって本当に……俺、【伝説の勇者様】!?
しかし、一度入ってしまった自己愛のスイッチはその程度では、伝説の勇者の前では覆らなかった。
結果、
「なっちゃった……のか?」
良正は、ぼそっと独り言みたいな台詞をわざと吐いて、他人に構って貰おうと、いささか卑しく面倒な行動に出る。
そんな中、いつの間にかミスリルはどこかへ行ってしまったらしく、残ったガロが笑顔で答える。
「そうでございますとも。何、どうした。なんと! では、このお方は――」
「んふふ♪ 何かあった〜?」
テンション急上昇中にある良正は、女子っぽい喋り方で声を弾ませながら聞いた。
ン、ンンン……ゴホン。
ガロのわざとらしい咳払いが広々空間のしんとした部屋に響き渡る。
ぼふぼふ……
その背後からどこかへ行っていたミスリルと、黒革のブーツで靴音を立てる見知らぬ女が、敷かれた真紅の絨毯の上を歩いて良正の方へ向かってくる。
女と言ったが、全身カジュアルコーデで決め込んでいる姿を見ると随分若そうである。
女子高校生か? なら三、四つ歳が離れていることになるのか、などと良正はまたどうでも良いことを思案していた。
二人がその歩を止めると、それに合わせてガロが開口する。
「……ええと、大変申し上げにくいのですが、残念ながら貴方様は【伝説の勇者】を獲得なされず、此方の方が【伝説の勇者】となられました」
「ェェエエ工!? 何ィィイイイ!?」
――俺の描いていた未来予想図とは違う異世界生活が、この女との因縁がここから始まる
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