浦島はどうなった
「ビールは?」
「ヴァイツエン飲んでみようかな」
さてさて浦島伝説は奇想天外な事に、エラン人による地球人拉致事件に展開しちゃっています。でも拉致っていっても、エランに連れて行かれた地球人は人体実験の材料にされたり、見世物にされたのではなく、エラン人に愛され、家庭を作り、上流階級に属して暮らしていたみたい。
「そうだ、そうだ意識分離された地球人はどうなったの」
エリート層というか上流階級の憧れになった地球人だけど、連行された初代の人の地位はとっても高くなってたみたいだったの。これを死に絶えさせるのはアカンって話になったぐらいで良さそう。
その頃には十人ぐらいまで減ってたみたいだけど、意識をエラン人の宿主に移して生きてくことになったらしい。位置づけとしてエランの地球人子孫のトップみたいな感じみたい。政治的にも大きな勢力だから、望郷の念に応えて二百年後に地球に帰還したんだけど。コトリちゃんはヴァイツエンをサーバーからジョッキに注ぎながら、
「神ってね、元はイラン高原にいてメソポタミアに広がったぐらいでエエと思うのよ」
それは聞いた。
「メソポタミアからヨーロッパにも移動もしたと思うのよ」
これも地理や文明発達から理解できる。
「でもね、アジア、とくに日本は遠いのよ。だから地生えというか、土着みたいな神はまずいないと考えてる」
「でもグローバルな時代じゃない」
「そうやねんけど、神言うても万能の人やあらへん。ちょっと特殊な能力を持つだけやんか。記憶の継承言うても、その土地土地の文化や文明、さらに言語を知ってなきゃアカンと思うねん。ヒョコっと日本に来ていきなり力が揮えるとは思えへん」
言われてみれば。神が力を揮って成功すると言っても、あくまでも人相手だし。
「コトリもユッキーも興味持ってるのは、浦島が実在したら一万年前の流刑囚系統の神とは別になる可能性が高いと思てるからやねん」
「でも浦島が実在してそうな証拠でもあるの?」
「あるのはある」
これは十八年前にユッキーが地球全権代表としてエランと交渉した時の話に遡るようだけど。
「あの時に現代エラン語は誰もわからんかったやんか」
「でも、ユッキーは・・・」
「もちろんコトリもミサキちゃんもわかったよ」
現代エラン語はエラム語がベースなんだけど、元が同じと言うだけで用法用語に大きな差があったのよねぇ。そりゃ別れてから一万年も経てばそうなるわ。コトリちゃんが言うには五千年前のエラム語でもかなり変化してたって。
現代エラン語と意思疎通をするためには、エラム語でも少しでも古いのを知っている必要があるぐらいで良さそう。そちらの方がより現代エラン語に近くなるぐらい。
「祭祀の時は古エラム語を使ってたのよ。今でいうなら旧かな遣いのバリバリよりもっと古臭い感じ。そうねぇ、古エラム語と言うより原エラム語って感じかな」
なんとなくわかる。祭祀って権威も大事だから、わざとわかりにくい言葉を使ったりするもの。仏教のお経だってそうだし、神道の祝詞もそう。キリスト教のラテン語もそうとも言えるかも。
「コトリもそれを知ってたし、ミサキちゃんだって潜在記憶の中にあったから、あの時にわかったのよ」
なるほどそういうことか、
「ところがね、十年ぐらい前に現代エラン語が話せるって人が出てきたんよ」
「あっ、それ読んだことある」
「あれは本来無理のはずやけど、浦島が実在してたのなら可能だと思うんよ。だって年代差は千三百年ぐらいやから、コトリやユッキーよりはるかに近いやんか」
「じゃあ、その人を調べれば」
「もう亡くなってる」
ここからの話が複雑なんだけど、わたしだって現代エラン語を話せる可能性があるんだって。それどころかラテン語だって、イタリア語だって話せるはずだって。
「これもわからへんところが多いんやけど、記憶の継承を封じたタイプでも獲得した能力は継承するんよ。ミサキちゃんだって現代エラン語がわかったし、ラテン語だって読めるし話せるからね。もっとも潜在能力として伝わるだけだから、開花するにはキッカケは必要やけど」
「だったら、わたしのカメラ・テクニックも次の宿主に伝わるの」
「そうや」
あは、次の宿主に移ってもフォトグラファーやってるかもね。
「そやから浦島やったら話せてもおかしくなんやけど・・・」
ここでユッキーが、
「妙なのはそういう能力を世間に誇示した点なのよ。少なくとも現在まで生き残ってる神は、人にその能力を見せることはないのよ」
たしかに、ユッキーにしても、コトリちゃんにしても、頼んだらわずかに見せてくれるけど、見せびらかすなんてしないもの。たとえ使っても、偶然とか、気づかれない範囲でやってるもんね。
「コトリと悩んでたのは、記憶を継承する神がそんな事をするかなのよ」
「ほんじゃ、その人って水橋先輩みたいな人の異能者じゃないの」
「そうかもしれへんけど・・・」
コトリちゃんが言うには千三百年だから二十五回から三十回の宿主代わりだからラッキーで生き残った可能性が一つ、
「もう一つは目覚めたる主女神タイプ」
「主女神ってわたしに宿ってる奴」
「そうよ。主女神は記憶の継承能力を自分で封じたと思ってるけど、次の宿主は自分で選べたのよ」
そういうケースもあるんだ。
「もしかして旅行の時にホテル浦島を避けたのは」
「あははは、用心しすぎと笑うと思うけど、加納賞の話から神の存在を浮かんでもて、その神が浦島につながるって思てもたんよ」
「それだけ?」
「まあな、神とガチでやるんやったら、用心はそれぐらいせんと」
神との対決を想定したら、そこまで注意するみたい。というか、あれだけ漫才みたいに細かな経費の話を繰り返してた香坂さんが一言も口を挟まなかったものね。香坂さんも神絡みとなると、ホテル浦島のキャンセル料なんて些細なものになるみたい。
「話変わっちゃうんだけど、民宿泊った時に星野君に夜這いかけたの」
「ああ、あの時。最初はシオリも入れて4Pしようと思ってたのだけど、シオリは断ってしまったでしょ」
4Pなんかするわけないでしょ。
「だからコトリと3Pにしようと思ったのだけど、初対面でいきなり3Pもどうだって話になったのよ」
そもそも3P以前に初対面で女の方から、いきなり夜這いはないでしょうが、
「順番って話もあったのだけど」
マジかよ、
「燃えるんだったら最低でも三時間ぐらい欲しいじゃない。ううん、四時間は欲しいかな。それと後の方が星野君を燃え上がらせるのは大変じゃない」
二人とも頭の中はフルコースかよ。もしやられたら星野君死んでたかも、
「順番は無理だって話になってもめたのよ」
エライ話だ、
「それじゃ、決闘だって話になっちゃって」
エレギオンHD社長と副社長が夜這いをかけて決闘とは、
「外に出たんだけど、こんなところで女神の喧嘩をやったら迷惑だろうってコトリが言うのよね。見上げたらお月さんが綺麗だったから、お月見してから、部屋に戻ってそのまま寝ちゃった」
ホンマに香坂さんも大変だな。
「まさかと思うけど、あの後にシオリは行ってないでしょうね」
「行くはずないでしょうが」
「そんな顔して油断ならないのがシオリじゃない」
そこまで言うか。
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