記憶喪失無人島スタート異世界転生いずれチーレム成り上がり学園海賊譚

@chinchichin

異世界生活はママんの肋骨と共に



 俺は人間だ。名前はまだ無い。

 と、いう一文からはじまるのは在り来りかもしれないが、逆に言うと今の生活には『名前』は必要ないという意味でもあった。


 というのも、それはつまり『誰かから呼ばれる』ことが無いということなのだが……端的にすると、俺は今無人島にいる。目が覚めてから──もう数えるのをやめて久しいが、赤子から思春期も後半くらいの見た目年齢になるまで、ずっと1人でこの島で生きてきた。


 始まりは骸骨の胸の内だった。母親の遺骨らしきそれに抱かれて目を覚ました。首も座っていない頃から生きてこれたのは、一重にこの世界に魔法という存在があるからだった。





「ぷぷぷ」


「ふふ、今朝は大雨だったからな……湿気た体毛が気に入らないか?」



 雨上がりの午後。1人と1匹は島の海岸をを歩いていた。

 彼らのあずかり知らぬところではあるが、遠く離れた人間の国では『宝島』と呼ばれるその島。

 そこで生まれ育った彼らは、今日も足取り豊かに日常を過ごしている。



「ぷぷ」


「ん……今日はを焼いて食べよう。アレの腹の肉は美味いんだ」


「ぷぶーっ!」



 穏やかな日常だった。その島には彼以外の人間は居なかったが、しかしそれ以外の全てがあった。彼にとって島の生物達は友達だったし、どこから生まれているのか、いつになっても絶えることの無い魔物達も、怖いけれど美味しい大切な食料だった。



「【剣】」



 ざしゅり。肉を割く音が浜に響く。「毒サソリ」は全長三メートルはあろうかという巨大な怪物だったが、彼にとってその狩猟は慣れたことだった。

 毒サソリの有毒部位は尻尾と口内の牙。己の身をもって得てきた知識によってその死体をまず解体した後、彼はゆっくりと可食部位を引き摺って島の内側へと運び込んだ。



「みんなー! 今日のご飯は毒サソリだぞー!」


「きゃうー!」


「ぐるる」


「ぷぶーっ!」



 島の内側に広がる鬱蒼とした森に入って暫く。湧き水のすぐ隣にある開けた広場には大小様々な動物たちがいた。

 彼と彼らは家族だった。時に笑い、時に喧嘩をし、しかし毎日騒ぎだけは絶えない。彼はこの世界で目覚めて後はまだ一度も人間と出会ったことは無かったが、しかし幸せに生きることが出来ていた。



「ぷぷ……ぷ」


「ん……明日は久しぶりに皆で泳ぎに行こうか。魚やタコなんかが採れたらいいな」


「ぷぅ、ぷ」



 皆でいると時間はすぐに過ぎ去る。今日もあっという間に夜が訪れ、彼はこの島でも一番仲のいい『ぷぷ』と一緒に眠りについた。

 それが今日までの、彼の一日だった。





☆☆☆





「せっ、船長! たっ、宝島が見えましたッッ!!」


「えマジで!? ちょちょ、ちょっと望遠鏡貸せっ!」



 彼らがすっかり寝静まった頃、『宝島』から五キロあたりの海を一隻の船が進んでいた。



「よしっ! これでパパにドヤされずに済むわ! でかしたブタゴリラっ」


「おっ、俺はブタゴリラじゃなくてダンケルです!」



 船は大きな髑髏の旗を掲げて悠然と進む。船員38名からなるその『タカラ海賊団』は、宝島にいるとされている『宝玉の魔物』を狙って航海を進めてきていた人間達だった。



「よーしブタゴリケル!全員集合よ!甲板に呼んで!!」


「ダンケルですってば!」


「早く!」


「ひっひぇえただいまぁ!」



 船長と呼ばれた海賊帽の女は、鋭く言い放ってはダンケルに仲間を呼びに行かせた。

 彼女はそのまま舵を取ると、進行方向を真っ直ぐ宝島の方に逸らす。



「面舵いっぱーい! さーて、待ってなさいよ、『宝玉の魔物』!」





 物語の始まりは、彼と彼女の邂逅からだった。




 

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