野犬少女

れおる

第1話 ハコノナカ

「ハァハァ…アアッ」

地獄の苦しみの時間が来たようだ。

ここ最近毎日同じ時間に、頭が痛い。

自分の心拍と重なりあいながら、ドクンドクンと、血が巡っていくように。


大量の糞と、ボロボロに引きちぎられた新聞紙の上に倒れ込み、辺りには真っ黒に汚れきった犬たちがいる。こんな劣悪な環境下にいる今できることなんて何も無い。


もがけばもがくほどに、足に付けられた金属の鎖がゴリゴリと擦れて赤黒く滲む、そして、手を頭に当てたくても、手につけられた重りがそれを邪魔する。

満足に自分のやりたいことが出来ないのだ。


私は、生まれた瞬間に2つの物を両親から貰った。

1つは、名前。

「アヤ」という名前。

でも、前にこの名前を呼ばれたのは遠い昔だけど。

もうひとつは、「生まれてきたことへの憎悪」だった。

私は今なんさいなのか、なんでこんなことになってるのか、自分の両親はどこにいるのか、何で助けてくれないのか、全く分からない。

けど、たった一つ分かることはある。

これは、「飼育放棄」されたのだ。


「ライ…自分はもう死ぬのかもしれないね」

ライ、それは、私にとって父のような存在、いや、父なのだ。

灰色の毛色で、耳がピンと立っている。凛々しいその目付きになんど自分もあんなふうに変わりたいと願ったことか。


なんど話しかけても、何を言っても、どうせ答えてはくれない。


だって、犬だから。

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