第六話 赤白鳥の奏鳴

第六話 赤白鳥の奏鳴(1)


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 僕らは初戦で『前年度王者』の鹿しませいようを破っている。

 しかし、『インターハイ王者』こそが、最も直近の最強チームに与えられた称号だろう。

 八月のインターハイを制した石川県代表、しようとくこそが現在の最強チームであり、今大会で最高の評価を受ける優勝候補の筆頭である。

 そんな最強の敵に対して、先生は初戦同様フアイブバックでイレブンを送り出していた。


 GKゴールキーパーさかきばらかえで(二年)。

 DFデイフエンスは左から、SBサイドバツクしろさきづき(三年)、CBセンターバツクもりこしまさ(三年)、CBきりはらおり(二年)、CBときとうだか(二年)、SBおにたけしんすけ(三年)。

 デイフエンシブミツドフイルダーは左にじようけいろう(二年)、右になりみやろう(一年)。

 オフエンシブミツドフイルダーは左にリオ・ハーバート(二年)、右になんりよういち(二年)。

 FWフオワードぜん常陸ひたち(二年)。


 不動のスタメンだったボランチの一角、ひろおみねんでベンチ外となり、攻撃の切り札、てんもベンチからのスタートとなった。中三日とはいえ八日間で四試合目である。しかも、このゲームから試合時間は九十分に延びる。両チーム共に後半から体力が落ちるのは明白だ。切れ味鋭いドリブルが武器の天馬は、来たるべき時に備えて温存されていた。

 翔督のフォーメーションは中盤をダイヤモンド型にした、オーソドックスな4‐4‐2だ。

 身長百九十五センチ、体重九十六キロ、今大会で唯一、伊織よりもでかく、ここまでの得点王であるFW、10番、クラウディウス。そして、身長百八十五センチのやはり大型FW、9番、ざきりんいちろう。翔督が誇るツートップは今日も先発メンバーに名を連ねている。

 相手を五対〇で一蹴した準々決勝では、早々に試合を決めたこともあり、二人とも後半の途中から温存されている。一方、こちらは準々決勝で主力をフル出場させていた。

 酸素キャビンの利用にプロのマッサージ、出来ることはすべてやってきたが、翔督とはそもそも選手層が段違いだ。連戦による疲労から回復出来ていない選手も多い。

 前線の選手や一年生の狼は、恐らく最後まで持たないだろう。しかし、高さのある常陸とリオを下げてしまっては、レッドスワン最大の武器であるセットプレーが生かせなくなる。

 鬼武先輩のロングスローを利用した時間稼ぎも、二人がフィールドにいるからこそ出来る作戦だ。常陸とリオにはギリギリまで、ピッチに残ってもらわなくてはならない。

 何よりも心配なのは、ここまで全試合でフル出場を続けている左SBの葉月先輩だ。すべての試合でふんじんの働きを見せてきた先輩の疲労の色は濃い。

 昨日の前日練習では、右のふとももを気にするような素振りも見せていた。

 葉月先輩がベンチに下がれば、レッドスワンの左サイドは攻守においてかいする。

 先輩には何としてでも最後まで、走り切ってもらわなければならない。

 理不尽な過密日程の前では、時に知性さえ無力だ。

 不安材料は幾らでもある。だが、ここに至ってはもう、どんな言い訳も意味を持たない。


 一月九日、土曜日。

 雲一つない快晴の下、レッドスワン最大の挑戦が、今、始まろうとしていた。


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