熱病

 ギラギラと 夏の陽射しが

 地面を突き刺してゐる

 川は流れを急にさせながら

 うねりをあげて進み続けた


 木々は川の上へ影を落とし

 さらさらと 静かな冷水を育み

 本流へ送り出してゐる


 そこへひとりの少女が

 ふつくらとした素足を川へ晒し

 その冷たさに震へながらも

 こちらへ向かつてこやうとしてゐる


 危なつかしげな足取りが

 揺らめく水面みなもに隠れて

 そのまま流れに攫はれてしまふ

 そんな風に見えた


 少女を迎へに行かうと

 靴を脱いで 川の中へ足を踏み入れた

 ぬるぬるとした石に触れた

 石には苔が生えてゐた

 (苔に含まれた気泡が

  足底から這ひ上がつてくる感覚)


 そのまま歩を進めると

 固い小石のでこぼこと

 水草のはりつく感触

 鈍くなる足先

 

 清く 美しく おぼつかなく

 透明に体を染める

 刺すやうな冷水

 

 雲がいつぱいに浮かんでゐる

 ずんずんと空を覆ふ

 午下には雨が降るだらう

 しかし未だ太陽は

 わたくしたちを照らしてゐる


 木陰と陽光の交錯が

 少女の顔を彩つた

 幾度夢見た その微笑み

 静かな微笑みのせいでせう

 わたくしがこんなにもかなしいのは



 涼やかな風が吹いてきて

 眩んだやうに のけ反つた

 暈なる先にうつる少女の

 横顔に散らばつた

 光のまだら

 (さうしてそのまま倒れるのだらう)

 その明滅は

 夏の暑さがもたらす

 幻のやうな熱病で

 滑り落ちてしまひさうな

 その身を抱いて

 あゝわたくしも

 一緒に流されてしまふ


 はらはらと落ちる涙と

 苦く 美しい夏だけ


 それだけを愛してゐたい

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