第15話


 異世界で二度目の高校二年生をすることになったが、授業内容は前の世界と変わらなかった。ぼっちは勉強以外やることなかったので、めちゃくちゃ楽勝である。


 とはいえ、受験勉強で何度も繰り返したことを再び授業でやるのも苦痛なので、東大とか京大とか頭いい系学校の入試問題集を勝手にやることにした。前の世界で同じことやってたら、先生に注意されたし、周りから「東大とか無理だろ」みたいに軽くバカにされたっけ?


 ——俺は本当に過去から学ばない男だ。


 と思わないでもないが、実際、授業の内容つまんないんだし、しかたがない。

 でも、歴史なんかは、前の世界と微妙に違っていたりするため、ちょっと面白いんだよな。この世界の歴史に関しては第七感拡セブンスありきで解説されてるし。


 特に大きな違いは、神話や宗教上の奇跡が全て事実として認識されていることだ。たしかに第七感拡セブンスなら、海だって割れるだろうし、湖の上を歩くことだってできる。ピラミッドの建設も異能力者たちによるものだし、平将門の首だって飛ぶのだ。そんな風に中世くらいまでは普通に異能力は存在していたのだが、ヨーロッパの魔女狩りや産業革命によって異能が科学の裏側へと押しやられていくことになる。


 異能力というのは、普遍的ではない。科学技術は才能に関わらず誰にでも使えるため、もともと少なかった第七感拡セブンスというものは隅へと追いやられていく。魔女狩りは異能力者への嫉妬によって生じたものだとされるのが、この世界での通説だった。


 だが、第二次世界大戦中に枢軸国と呼ばれるドイツや日本が、異能力者を戦争に利用し、大きな戦果をあげた。結果として科学の力である原爆やアメリカの物量で負けてしまったが、戦勝国は第七感拡セブンスの存在を公のものとすることで大々的に研究を開始することになる。

 結果、なぜだか異能力に目覚める者が増え、同時に妖魔災害が世界規模で生じることとなったとかなんとか。


 今は科学と神代が混交された時代とされている。別の言い方をすると、科学と魔法が同時に存在する時代。

 個人的にはたまらない時代である。


 前の世界同様、昼休みはひと気のない場所で飯を食い、図書室で本を読み、休み時間は勉強をし、学校では誰とも話さず過ごしている。会話をしている時間も惜しい。俺はこの世界のことを知り、もっと異能力を理解したいのだ。


 気づけば、一日の授業が終わっており「今日も一日楽しかったな~」と充足感を得ているわけだが、楽しげに歓談するクラスメートたちを見ていると、胸の辺りを風が通り過ぎていく感覚に襲われてしまう。

 机に両肘をついて手を組みつつうなだれた。


 ——こんなの! おかしいだろっ!!


 普通、灰色の高校生活を送って、やり直しするんなら、もっと能動的にエンジョイハイスクールライフだろ!! 青春を取り戻すべきだろ!! そのチャンスがあるんだぞ!! なに勉強してんの!? なに便所飯かましてんの!? なに赤本使ってかしこいアピールかましてんの!?


 俺は! 本当に!! バカかっ!?


 たしかに俺はクールに生きたいさ! それが一番大事さ!!

 でもさ、おかしくない!? イケメンだぞ! 顔がいいんだぞ! しかも、頭だっていいし、性格だってクールだぞ!!


 もっとチヤホヤされてもよくない?

 ハッピーハイスクールライフ展開あってもよくない?


 なんでないの!? なんでないのっ!?

 なんでっ!! ないのっっ!!!


 叫んで発狂したい衝動をクールな理性で押し殺す。前、話しかけてくれた木村君はクラスの女子と笑いながら話している。流行りの動画と音楽の話だ。

 俺も知ってるよ、そのバンド。いいよね、エモいよね。なあ、木村君、木村君!! 俺はここにいるよっ!! 木村きゅんっ!!

 木村君のグループに脳内念話を送るが、視線は向けないし、ぱっと見「興味ないね」のスタンスを崩さない。でも、木村君たちは俺のことなど眼中にないようだ。


「…………」


 認識阻害が使える俺なら、あるいは彼らの精神に干渉して俺に話しかけさせることだって可能では……?


「なにを考えてるんだ俺はっ!!」


 思わず叫んで頭をかきむしってしまったが、そのせいで木村君たちのグループの会話が止まった。クソ、変な意味で注目されたが、ギリ、クール許容内だ。むつかしいこと考えてる俺はクールなんだ。そうだ、クールなんだっ!! クール大事なの!!


 それにしても、あぶないところだったぜ……。


 異能力使って他人を思い通りに操るとか、それアウトなやつだよ。ぜんぜんクールじゃないよ。そんなのドクズな神門刀義と変わらないよ。

 でも、こんなにイケメンなのに誰も話しかけてこないってことは、神門刀義って本当に救いようのないクズだったんだろうな。十二人の彼女も本当にいるのかな? いるなら話しかけにきてもおかしくなくなくない?

 今なら寂しさのあまり、誰でもいいから求婚するレベル(涼葉は除く)だよ?


「おい、神門」


 声をかけてくるとしてもさ……。


(俺になにか用かな?」

「すっとぼけてんじゃねぇ。わかってんだろ? ツラ貸せよ」


 涼葉がボコったチンピラだけなんだよね。

 もう、こんなのばっかだよ……。


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