荒野の夜、独り
亡糸 円
月の昇る頃
所々、まばらに背の低い草が風に揺れている以外に、動いているものはない。地平まで広がるひび割れた荒野は、延々と続いている。此処に生きるものは未だ、荒野の『果て』を見たことがない。
狼は、乾涸び割れた地の狭間に沈みゆく陽を目を細めて見送ると、一つ大きな欠伸をして、あてどもなしに、ゆっくりと歩を進める。
狼に仲間はいない。空しいほど広大な荒野に一匹で、日々の食事をどうにか探して生き延びていた。長すぎる生活の中で、狼は独りでいる理由も、最早居たのかも定かではない仲間や家族の面影も失ってしまっていた。すべては遠い過去に置いたまま、ひたすらに狼は生きていた。
足を止める。眼前の小さな草むらの上を、
狼は一切の
残っていた肉の半分ほどを腹に収めたころ、向かいの草むらから狼同様、草をかき分けこちらへ向かう獣の気配があった。気配は草をかき分ける音、自身のものではない獣臭を伴っていた。単に風で草むらが揺れただけなどではないだろう。自らの食料を奪わんとする敵の存在を認め、狼は咽を
果たして草むらから現れたのは、
仔狼も必死なのだ。今日を生き延びるために一心に今を生きようと藻掻くその姿に、狼はいつかの自身を重ねる。ここでこいつを追い払い
狼は呻りを止め、金に煌めく仔狼の眼をじっと見つめる。やがて
星月の
必要ないのだから、その日を生きることが出来れば、そこが地獄であろうと、狼は歩き続けるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます