第231話 清吉への聞き込み

「平太、又技量を上げたな、其方の気配は感じられん、だが今の相方はお雪であろう、姿を見せねえか」

隣の部屋との境の襖が開いて平太とお雪が部屋に入って来た。

「私はまだまだですか」

「お雪、お前は素量はあるが鍛錬を初めて間が無いのです、ゆるりとやりなさい」

「はい、お駒様」

「それで、平太、わざわざ江戸へ来た訳は丘屋敷の事だけでは無いな」

「はい、親父、天狗様への願い事が二件参りました」

平太は銚子と行徳の件でこれまでに解っている事を話、訪問は銚子の丸に松の字の船と行徳の行徳屋について知ってる事は無いかと尋ねた。

「平太、銚子の件は初耳だが行徳の件は奉行所でも御存じだ」

「で、調べの方はいかがでしょうか」

「連日、塩が盗まれていると言う事実だけで行徳屋が絡んでいる事は初耳だ」

「下引きを使って塩の動きを探らせて見たがさっぱりだった、だが、探る相手が解りゃこっちの物だ」

「下引きを動かしたんじゃ相手に気取られるよ、親父」

「安心しねい、相手が解ったんだ、ここからは俺とお駒が動く」

「親父は行徳屋を知っているのかい、龍一郎様が江戸のお店の事は親父に聞くのが良いと言い為さったが」

「ああ、知っているぜ、だが、ちょっと困った事がある」

「何だい、人出なら私とお雪の他に三郎太様が助けてくれる事になっている、江戸には誠一郎様と舞も戻っているがね」

「そうじゃ無いんだ、行徳屋は塩問屋なのだか、一番の仕入れ先が加賀藩なんだよ」

「何と加賀藩か~、そいつは厄介だ、物が塩だけに幕府の誰かが絡んでいるとは思ったが加賀藩の誰かも絡んでいるかも知れないな」

「お駒、家の客に行徳屋か加賀藩の方はいるかい」

「私の知る限りじゃいないね、お高さんの処に当たってみるよ」

「そうしてくれるか」

「あいよ」

「龍一郎様は黒幕のその又黒幕まで一機に潰すお積りの様だ、行徳の件は任せても良いかい」

「任せな」

「それで銚子の一件だが丸に松の字に心当たりはあるかい」

「あぁ、ある、松前屋と言う回線問屋の印に違い無い、名前の通り松前藩の御用達のお店だ」

「魚を盗んで何をやっているのかが気掛かりだね」

「こればかりは龍一郎様の読みが外れてお城の方が絡んでいないと良いがな」

「どちらの件も商人と武家が絡んでいそうだ、中には剣の使い手もいるだろう、平太、お雪、気を付けろよ」

「松前屋の方は誠一郎様にお任せ致します」

「何、誠一郎様もいらっしゃるのか」

「気配を感じませんか、おっかさんは解っている様でしたが」

「ええ、誠一郎様の気配は感じられませんが舞の気配は感じていました、舞がいれば誠一郎様もと思っていました、舞、忠告して置きます、其方、人としての気配は上手く消せていますが、誠一郎殿の側にいる事の幸福感が漂っています、気を付けなされ」

「はい、ありがとう御座います、以後気を着けます、母上」

天井の片隅から舞の礼の声が聞こえた。

「処で親父殿、丘屋敷の方はどうだい」

「そっちは順調だ、宮大工の健吉棟梁が引き受けてくれた、富三郎さんとも引き合わせた、二、三日中に丘屋敷に出向くつもりだ、儂も一緒にと思っていたが行徳の件が入ったから富三郎さん一人に頼む事になるな」

「富三郎さんの裏の穴倉と建屋の方はどうなんだい」

「建屋の絵図面は出来た様だが蔵の絵図面に悩んでいる様だ、何でも天井の材料らしいや」

「養老の里と同じじゃないのかい」

「富三郎さんが同じ物で満足する訳がないだろうが、富三郎さんはよう、天井もレンガで作ろうとしているのさ、信じられないぜ」

「大丈夫だよ、富三郎さんならやってくれるさ」

「そうだな、そっちの心配は止そう、行徳屋と松前屋の探索の役割分担はどうするな」

「そうだな、行徳は俺たちが行ったから行徳屋は親父とおっかさんと俺とお雪ちゃんだね、銚子は誠一郎様たちだったから松前屋は誠一郎様と舞と三郎太さんとお有さんに頼むよ」

「えぇ、三郎太もいるのか」

「いるよ」

「返事が無い処を見ると割り振りに反対は無い様だ・・・じゃ~、俺らは道場へ行くよ」

「何だ、此処に泊まって行くんじゃ無いのかい」

「おっかさん、お雪ちゃんとお婆さんに久し振りに会わせたいのさ」

「そうか、そうだね、そうしておやり、じゃ~、誠一郎様と三郎太は此処に泊まりなよ、里の様子も聞きたいしさ」

「・・・」

襖が開き誠一郎と舞が部屋に入って来て着座し頭を垂れた。

「清吉殿、お駒殿、お久振りで御座います、ご壮健でなによりです」

「父上、母上、お久しゅう御座います」

「うむ、其方らも息災で何よりじゃ」

清吉も二人に合わせ武家言葉で応じた。

「龍一郎様への言伝があるかい、親父」

「丘屋敷以外の事は無いな」

「そうそう、忘れていた、富三郎さんの元に里から二人の少年が弟子として送られる事になった」

「そりゃ良い話だ、富三郎さんも少しは楽に成れば良いがな」

「そうだね、じゃ、我らは道場へ参ります」

「小兵衛殿、お久様によろしくな」

「畏まりました」

平太とお雪が隣の部屋へと消えた。

「舞、そんな処にいないでもっと側で顔を見せておくれ、夕餉は何にしようかねぇ~」

その夜、船宿・駒清の奥では賑やかな夕餉が食された。

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