第160話 決勝戦 女子の部
「俊方、我ながら良い組み合わせであったと思うがどうか???」
「はぁ、真にもって素晴らしき選択に御座いました」
「うむ、橘同士は最後が良かろうでな」
「はぁ真に持ってお言葉の通りに御座います」
審判の声が静粛を求め組み合わせが発表された・・・最後なのでその必要も無いのではあるが。
「これより決勝戦を行う、まず、女子の部、次に少年の部、最後に成人の部とする・・・では橘流・橘久殿、同じく橘道場・橘佐紀殿、お仕度を」
二人が待機席から開始線へと歩いて行った。
得物は珍しく先に佐紀が竹刀を選んでいた。
審判が開始線に立つ二人を確認し宣言した。
「・・・は・じ・め~~」
佐紀は正眼では無く初めから上段に構えた、それを見た久も一瞬遅れて上段に構えた。
静寂に包まれた場内に「ブン、ブン」「ブン、ブン」と音が響き始め、その音が徐々に大きくなって行った、無論、音と同時に佐紀の竹刀はゆっくりと下へと降り始めた。
だが、今回は佐紀だけでは無かった、対戦者の久の竹刀も佐紀と同様にゆっくりと下降していた。
二人が同じ技を仕掛けている様だった。
佐紀が竹刀を選んだのには理由が有った。
この技を木刀で熟せるのは龍一郎と佐紀だけだったからである。
後の者たちは少なからず剣先が上下にぶれていた。
三郎太はもう少しと言う処まで来ていた、次は平四郎だ、残りは同程度だった。
だが、彼らも木刀では剣先はずれるが竹刀での技は習得していた。
そこで佐紀は竹刀を選び、久がその意図を察したのである。
剣術指南役・俊方はこの時気が付いた、静寂にである。
対戦者に橘の者がいる時には場内が他の者達の時より静かになるのだ。
何をするのか、何が起こるのか・・・と見守るのだ。
ましてや今回は対戦する二人が橘の者なのだ、場内は物音一つしなかった。
それを感じた俊方自身も二人がどんな技を・・・どんな事をするのか興味深々だと自覚した。
二人の竹刀がゆっくりとゆっくりと下降していた。
そして不思議な事が起こった、二人の竹刀の切っ先が交差したのである。
佐紀の竹刀の五寸程上に久の竹刀があった。
「俊方、其方の解釈では、この状態を何とする、無理では無いか」
「お言葉を返す様ですが、佐紀殿が先に振り後から久殿が振りそして戻すその後で佐紀殿が戻すを素早く行えば可能かと存じまする」
「その僅かな差をあの者達は作り出しておると言うのか?」
「はい、しかしながら尋常な事では御座いませぬ・・・某にはできませぬ」
「出来ぬか・・・」
場内が静まりかえる中、「ブン」とも「ヒュン」とも言う音だけが響き二人の竹刀の差が縮まって行った。
場内に突然「バン」と言う音が響き竹刀が一本、空高く舞い上がって行った。
その瞬間場内は「あぁ」「おお」と言う驚きの声が溢れ騒めいた。
対戦者はと見れば佐紀は竹刀を正眼に構えていたが久は無手だった、久の竹刀が飛ばされたのだった。
二人は暫くそのままにいたが久が右手を天に突き出した、何とその手に飛ばされた竹刀が降って来た。
場内には再度「おぉ~」と驚きの声が響き、その後に拍手喝采に包まれた。
二人の対戦者は竹刀を左手に持ち替え礼をして控えの席へ戻って行った。
余りの驚きの連続に審判は勝ち名乗りを忘れていた。
「俊方、今のは何じゃ、如何に素早い動きでも竹刀をあれ程飛ばす事は無理でろう」
「はい、無理に御座います・・・ですが事は起こりました・・・私目には解りかねます、申し訳も御座りませぬ」
「良い、良い、やはり其方は人の子、あの者たちは鬼人じゃ・・・がしかし、もそっと側で近くで見たいものじゃのぉ~」
「隠居・・・」
「言うな、聞くな、儂にも解らん」
「そうか~隠居にも判らんか~」
「あぁ儂にも判らん・・・が今度、若先生に聞いてみるべ」
「若先生って龍一郎様の事け」
「そうじゃ、誰に何を聞いても若先生が「うん」と言わねば言われぬ、と答えるでな」
「大先生の館長ではのうて若先生か?」
「・・・う~ん・・・そう言われれば・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます