第76話 闇修行

その夜、龍一郎、お佐紀、三郎太が夜修行に出かけた。

その後暫くして小兵衛、平四郎、清吉、誠一郎、平太が夜修行に出かけた。

そして更に暫くして残りの女衆が夜修行に出かけ小屋は富三郎と正平だけとなった。

これが、この一団の毎夜の行動となった。

小兵衛達は大木が無数に立つ林を修行の場とし暗闇の中を木を避けて走る修練をしていた。

女衆達は河原で特定の大きさの特定の石を拾う事で夜目を鍛える修練をしていた。


日に日に女衆の降りの速さが増した、石を見る事で目が養われた様で、其れまでは軽く足を痛める事も稀にあったが目っきり無くなった。又男衆達の修行の成果は別の経路、木立ちが生い茂る道筋で発揮され以前に比べ格段に素早くなっていた。この成果に龍一郎達が闇修行に出た後、男衆、女衆が協議し林抜けと川縁の小石拾いを交互に行う事にし、その成果は脅威的なものであった。


毎日昼八つになると富三郎は皆と別行動を取った。無論、地下蔵と重しのためだった。

レンガ用の土は富三郎の予測通り山の中腹に見つかり皆が麻袋、風呂敷、古着物に詰め持ち帰った。

重し用の鉄は小兵衛が先導し清吉、お駒、正平、平太が里へ出かけ鍋釜など鉄物を購って来た。

(この時代、鉄は貴重で再生が頻繁に行われ鉄の廃品集めが回っていた)

冶金用の鉄台と金槌は三郎太が町まで出かけ大変な重量にも関わらず背負い余分に鍋釜と包丁などの刃物も購って来た。

三郎太は富三郎に頼みがあった、それは武器の製造で手裏剣だった。

従来の手裏剣は一刃、三刃、四刃であるが三郎太が考えた物は八刃の手裏剣である。

刃の数が少ない程当たれば傷は深いが当たりが悪いと効き目がまるで無い。

留めは剣で刺すので手傷を負わせ浅い傷でも確実に相手に手傷を負わせる八刃を考案した。

だが実際に使った事が無い、そこでこの良き機会にと鍋釜では刃物用の鉄には不向きと刃物を買い入れたのだ。

三郎太は手裏剣作りを龍一郎が許したならば、その手伝いをなし作り方を習得したいとも思っていた。


この日も八つになり皆が山へ向かったが富三郎は新たに右に建てた小屋で土を捏ねていた。

山の崖には穴が掘られ十尺程の山の上に穴がうがかれ崖の穴に通じていた、煙突である。

富三郎はこの簡易な釜でまずは本格的な釜の壁用のレンガと冶金用の釜のレンガを作る積りだった。

今捏ねているのはそのレンガで、捏ねた土を木枠に入れ押し固め木枠を外し天日干しする、その後、崖の簡易釜で焼くのである。

富三郎はレンガ作りの経験は既にある。

能登屋、加賀屋、橘家を結ぶ地下道である。

只そのおりは山の炭焼き窯を借り受け作ったもので窯から作る事は富三郎にとって初めての事であった。

皆が住まう小屋の右に富三郎の作業小屋を建てたが左には大きな穴が掘られていた。

住まいの小屋よりも大きな穴で、皆で修練の合間に龍一郎曰く穴掘りは格好の力付けなりとの言葉に男衆だけで無く女衆も全員で掘ったものである。

大きさも住まう小屋よりも大きいが深さは小屋が二つ重ねられる程に深かった。

勿論、富三郎の願いを龍一郎が聞き入れたものである。

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