第75話 富三郎の務め

「富三郎、重しを持参致したか」

「はい、持って参りました、地金も持って参りました」

山への登り降りを繰り返し合間に剣術稽古を成し勿論昼餉も成し日が暮れて夕餉も終えた。

「正平にもそなたが作ってやったか」

「旦那様のお目は誤魔化せませぬ、何時お分かりで御座いますか」

「そなたら夫婦が始めて間も無い頃かな清吉の蕎麦屋へ行ったおりに同じ動き故に解った。正平の嫁共々にな」

「ひぇ~、親分、龍一郎様はとんでも無い方だね」

「正平、親方と呼べ、渡世人じゃねい、第一、龍一郎様のこんな事で驚いていては切が無いわい」

「親分じゃ無い親方、龍一郎様はそんなに凄いか」

「あぁ、凄い凄いぞ、なぁ三郎太、平四郎さん」

「はい、強いぞ正平、富三郎、なぁ三郎太」

「私からは申せませぬ、が、皆様も薄々ご存知とは思いますが前回の修行のおり皆様が就寝された後、龍一郎様、お佐紀様と私が毎夜山へ登りました。その道筋と皆様の道筋と比べれば皆様の道筋が江戸の町並み歩きに御座いましょう。その厳しき道筋をお二人は忍びの私を置き去りにする程に早う御座いました。されど私が思うにその厳しき道筋も龍一郎様にはいと容易き道筋ではないでしょうか、それが証しに最後はお二人だけの修行を望まれました。」

「前(サキ)の修行のおりに皆そうじゃろうと話しておった、のう御一同」

小兵衛が皆に賛同を求めた。

「私も参加したいと橘様に申しますと、誠一郎、お主の業前では無理であろうなと言われ平太殿にも無理でしょうと言われ断念致しました」

「ほう、その様な事がのぉ~、平太何故無理と思うたな」

「はい、態々(ワザワザ)我らとは別に師匠・三郎太様だけを連れて行かれたは三郎太様の忍の術を得る為か師匠を鍛える為かの何れかしか御座いませぬ。妻女に成られて間もないお佐紀様の上達振りを見れば龍一郎様の忍びの業が師匠を凌ぐと推察致しました」

「平太、三郎太に忍び、言葉使い以外にもいろいろと習ろうたと見えるな」

「はい、私の侍言葉はいかがに御座いましょう」

「良い出来じゃ、誠一郎、かように平太に言われてどう思うたな」

「悔しく思いました、それ以来、平太と呼び捨てに出来なくなりました」

「あれは六日目であったかのぉ、そなたの修行に接する様が変わったのは・・・その性であったか」

「はい、左様にございます」

「誠一郎、これからも励め、平太は三郎太の一番弟子じゃ、精々差を空けられぬ様に致せ。夜修行は平太の読みの通りじゃ体力も足りぬが夜目が利かぬば怪我をする・・・無理と思え良いな。話を戻すが富三郎そなたを何故加えたか解っておろうな」

「私が推察しますに建屋の改築、蔵の増築、金物つまりは武器の製造かと・・・」

「正平、そなたの訳は解るかな」

「あっしは、基(モトイ)私は皆様の集まりに度々使われる親方の店の守りのためと思っております」

「清吉殿、良い下っ引きを抱えておるのぉ」

「へい、あっしも今驚きました、あっしは今訳が解ったような始末で」

「親分、子分を変わるか清吉殿」

「龍一郎様、そりゃあ勘弁して下せい」

で一同が湧いた。

「正平、良い読みじゃ、此度の修行を其方の嫁女に指南致せ」

「任せて下せい」

「富三郎、其方の読みも中々じゃ、其方には、この建屋に地下蔵を作って貰いたい、秘密の蔵じゃ。無論皆も手伝う、今一つ皆の重しも作ってくれぬか」

「秘密の地下蔵で御座いますか、それと重しそれも皆の分・・・・鉄が足りません。里で桑、鋤、鍋、釜などを購って来なければ成りませぬ。蔵には西洋の技術を使いとう御座います。それには特別な土を使います。頂からこちらまでの間に使えると思しき(オボシキ)土を見ました。明日の昼間にも確かめとう御座います。鉄と土が用意できましても鉄を溶かす炉、土を焼く窯を作らねばなりませぬ。土が焼けました後、あぁ、この土を焼いた物を西洋ではレンガと申すそうに御座いますが、このレンガを積み蔵を作るには一月は掛かりましょう」

「長い道程じゃな、済まぬ苦労を掛ける、じゃが必要な事じゃ願えるかな」

「私の苦労など気にしないで下さいませ、逆にお礼を申します。地下に通路を作ったおりに地下に部屋を作りたいと思っておりました。既に私の頭には絵図面が御座います。皆様のお力をお借りできれば早く完成できるものと思われます」

「何か他に欲しいものはあるかな」

「重しを作る際に鉄の台と金槌が有りますと遡り(サカノボリ)行程が減ります」

「遡り行程・・・・・成程、成程、これを作るためにこれを作るそれを作る為にこれを作ると遡る用がある訳じゃな、うむ、中々手間の掛かるものじゃな・・・鍛冶屋に余分が有ればよいがなぁ~、三郎太これはそなたに任せよう、何処からでも良い購のうて参れ、任せて良いかな」

「龍一郎様お任せ下さい」

「富三郎、他にはどうじゃ」

「西洋の書物に飛去来器が載っておりました、これを作ってみとう御座います」

「何じゃな、その飛去来器とは・・・」

「西洋ではブメランとか申しまして、軽い物は投げますと投げた者の処に戻って参ります。重いものは重さにもよりますが、殺傷力が御座います」

「ほぉ~お、面白き物じゃな、武器になるやも知れぬ、試してみてくれぬか、願おう」

「畏まりました」

「此度の山は富三郎が主と思い皆も手伝うて貰いたい」

「おお、何でも言うて下され」

皆から声が掛かった。

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