第17話 龍一郎の初仕事
龍一郎が満腹感に満足し、ウトウトとしていると店から怒声が聞えた。
これは商売の声ではないと、直ぐさま覚醒した。
木刀を手に奥から店を覗くと薄汚れた形(ナリ)の浪人が四人おり一人が番頭を相手に怒鳴っていた。
「我等は回国修行の者である。
ちと、路銀に窮しておる、我らの修行は江戸の安寧の為である。
それ故、路銀を調達いたせと申しておる」
「何故、私どもが、渡さなければならないのでございましょう」
「路銀がだめなら、札差なれば米があろう、米をだせと申しておる」
「ですから、何故、私どもが、用だてねばならぬのでしょうか」
「これ程、言うても解らぬか、ええい、皆、やるぞ」
他の三人に声を掛け剣を抜きそうになった。
其の時、奥から龍一郎が声を掛けた、脇差だけで、後は木刀を肩に掛けているだけだった。
「待たれよ」
「何奴じゃ、うぬ、この店では、用心棒を飼っているのか」
「飼っているとは、失礼な、犬や猫でもあるまいに」
相手が若いと見て強気に出てきた、自分たちが四人であることも有利と考えていた。
「若いの、用心棒になる位なれば、少しはできるだろうが、止めておけ、怪我するだけじゃ」
「やってみなければ、解りますまい、怪我は、そちらかも知れませんよ」と言って土間に下りた。
札差だけに土間は広いし天井も高い、十分過ぎる程に剣が振るえる、四人が一斉に剣を抜き広がった。
龍一郎は、相変わらず木刀を肩に掛けたままだ。
一人が八双の構えでじりじりと間合いを詰めてきた、と思ったら、突然、どさっと大きな音を立てて前のめりに倒れ込んでしまった。
見ているものが皆、唖然とした、中でも残りの三人は、何が何やら解らず、見合っていた。
相手の用心棒は、相変わらず木刀を肩に担いだままで立っているのだ。
三人は、それでも龍一郎にじりじりと向かって来た、
「まだ、解らぬのか、止めておけ、怪我をするだけだ」
三人は、この言葉で仲間を倒したのは用心棒だと悟った、が、理解ではなかった。
用心棒の身体も木刀も動いたとは思えなかったからだ、又、一人が少し前に出た、と、思ったら、先ほどと同じ様にどさっと前に倒れた。
音を思い出してみると、倒れるドサの前にボキと音がしたようだ、と、皆が気付いた。
「この者たちは、もう剣は握れぬ、別の道を探す事だ、今日のところは、二人を連れ帰ることを許す、早急に医師に診せれば、あるいは、剣が握れるようになるやも知れぬ」
龍一郎は、残った二人が怪我をした二人を背負い店を出て行くまでその場に立っていた。
店は物音一つしない、戻ってこないと確認した龍一郎が奥へと向かった。
龍一郎の背中に歓声と驚きの声が渦巻いていた。
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