第6話 船旅


※試験的に頭の中に響くロムラスの声を『』で表します。


▼前回のあらすじ▼

 ネメアの獅子から助けた少女ユズは、反乱軍のリーダーだった。

 ユズはファフに偽造身分晶をあげる条件として、ζ級冒険者になってほしいと頼む。

 どうやら、既存のζゼータ級冒険者には良くないウワサがあるようだ。


▼▼▼▼


チナ「ふぅぅーッ! 風が気持ちいいですねー!」


 結局、ユズの要求を呑んで偽造身分晶をもらい、ムースヘイム行きの定期船に乗った。

 

ファフ「よかったの? ユズに言い返さなくて」


 チナは自分がζゼータ級冒険者だと最後までユズに話さなかった。

 ユズが既存のζゼータ級に不信感を持っていることが分かっているのだからそのまま黙っておいて身分晶を貰うのがいい、というチナの判断だ。

 チナは自分の名誉なんかより転移の魔術具ってわけだ。


チナ「いいんです! メチャクチャ姫――反乱軍のリーダーが言ってるんですから、ある程度信頼できる筋からの情報なのでしょう。つまり、ζゼータ級には神国の手先がいる、んでしょうね。あ、もちろん私たちじゃないですよ!?」


ファフ「分かってるって。まだ短い付き合いだけど、チナはそういうタイプの人間じゃないってなんとなくわかってきたし」


チナ「んー? じゃあどういうタイプの人間だと思います?」


 チナはその場でクルッと回って見せ、そしてこちらにウインクをひとつ。

 ……あざとい。


ファフ「そうだなぁ。魔術具と魔結晶以外のことに興味がないタイプ、かな」


チナ「ぴんぽーん!! ファフさーん、私のことだいぶわかってきましたね?」


 チナはニコッと笑って答えた。


ロムラス『おーい、なにいい雰囲気になってるの』


 あ、起きたのか。

 ロムラスは船に乗る前に食いだめしてから今まで寝ていた。

 おはよう、と言ってやりたいところだが、チナの目の前で突然独り言を言い始めるわけにはいかない。

 

ファフ「……えーっと、それでマメゴロウさんはムースヘイムのどこにいるのかわかってるんだっけ?オハヨウ」


 なんとかロムラスとコミュニケーションをとろうと試みる。


ロムラス『おはよー。ふぁぁ、よく寝たらお腹すいてきちゃったよ』


 腹減っただと!? この野郎、あんなに食ったのに……。


 チナはファフの語尾に多少の違和感があったのか、少し怪訝な顔をしつつも質問に答える。


チナ「おはよう? ……多分ですけど、ムースヘイムの大都市、サーノケンにいると思います。お年を召された今でも現役だそうです」


 魔結晶で魔術具を作るなど前代未聞だ。

 もし扱いを間違えたら何が起こるかわからない、もしかしたら一帯が焦土と化すかもしれない。

 そこで、マメゴロウさんに相談しに行くのだ。

 彼は昔、アルファガルドの魔結晶関係で尽力したドワーフ。

 魔結晶を扱ったことのある彼なら何か知っているかもしれない。


ファフ「居場所が分かってるなら安心だな。それにしても、ドワーフの国か。ドワーフに会ったことないが、どんな種族なんだろ」


 この世界には人間以外にも種族がいる。

 北の国リンブルヘイムに住む獣人、人間にはたどり着けないとされる森の国エルヘイムに住むエルフ……などなど。

 

ロムラス『ドワーフかぁ。ぼくもほとんど見たことないからわかんないなぁ』


 ロムラスはこの世界長いのに、本当になんにも知らないな。


チナ「ドワーフといっても最近は人間との混血が進んでて、外見は私たちとほとんど変わりません。性格的には、ちょっと豪快な人が多い印象がありますね! 後は……そうですね……暑いのでみんな薄着だったり上半身裸だったりします!」


 なるほど、見た目が人間ならちょっと安心だ。

 

チナ「あ、そうそう! ファフさん、向こうに着いたらギルドでいくつか依頼をこなしますよ! メチャクチャ姫との約束も果たさなきゃならないんですから! 私も手伝います!」


 いやそれは……。

 チナと一緒だとロムラスになって戦えない。

 神国では龍は善くない存在とされているのだ。


ファフ「……ζゼータ級が手伝ってもいいのか? 確か上位冒険者が手伝うのはダメなんじゃ」


 上位冒険者に手伝ってもらえば簡単に級が上がってしまう。

 それを阻止するために、ルールで禁止されているのだ。


チナ「バレなきゃ大丈夫ですよ! まぁ、ネメアの獅子を単身で撃退したファフさんなら一人でも平気でしょうけど!」


ファフ「いや、そこはやっぱりちゃんと一人でやるよ。チナは観光でもしといて」


チナ「えーそうですかー? ――あ、そういえばネメアの獅子倒したんですから特別に昇級とかしなかったんですか?」


 あぁ、その話ね……。


ファフ「それが……目撃者がいないから俺が撃退した証拠がないから昇級はなし、だと」


 当時、市民はみんな逃げてしまってその場には俺とユズしかいなかった。

 しかもユズはスフィアライトの魔術具を渡してすぐさま消えたので、証人はゼロ。

 結果、”状況証拠的にはファフが撃退したと思われるが、特例として昇級させるのは難しい”ということになった。

 

チナ「あー、まあ冒険者ギルドも一枚岩じゃないですからね。他の冒険者ギルドのマスターを納得させないと、規則を破って昇級させるわけにはいきませんから」


 冒険者ギルド同士で争っているわけか。

 うちの冒険者が一番だ、と。

 だから勝手に昇級させるのはNG、と。

 

ファフ「はー、簡単に引き受けちゃったけど、ζ級になるのってかなり大変なんじゃ……」


チナ「もちろん! ギルドの昇級ルールに則って一つ一つ級をあげていくんです。ファフさんがいくら強くても、一人じゃ厳しいですよー?」


 いや、一人の方が都合良いんだよなぁ。


▼第6話地図▼

 https://pbs.twimg.com/media/EWtSQHJUwAI8Zzn?format=jpg&name=small

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る