第6話 兄弟と、花見と

「花見に行こうか」

 

 大概、和彦兄様の一言でそういった行事なんかは行われます。ちょうど、店が休みの日に近くの河川敷で、姉様方も来て。端から見ると僕たち兄弟は、仲が良すぎるようです。多分、僕たちは親がいないから、互いに助け合ってた分、そうなのかもしれません。

 普段、兄様たちはあまりお酒を飲みませんが、こういうときだけは、と義兄様たちと一緒になっていつも以上に騒がしくなります。姉様たちはその相手と幼い甥っ子たちの面倒を見ているので、ある程度自由に動き回る姪っ子甥っ子の面倒は、僕が見ることになります。

 そうはいっても、あまり体力もないので姪っ子の側で甥っ子たちを眺めているだけですが。大概、康直くんが率先して弟と孝子姉様のところの双子をつれて遊びに行きます。アキは、いつも僕のそば。彼らには外じゃアキの事が見えないから、それなら。

 

「ねぇ、アキちゃんはどっちが好き?」

 

「そっちの赤いのだって」

 

「そっか!私はね、この青いの」


「それも綺麗だね」

 

 隣にいる姪っ子、桜子さんは外でもアキの姿が見える。そのそばにいる方が、楽しいようです。

 暫く桜子さんとアキの相手をしながら、走り回る甥っ子たちを目で追う。


「ねぇ、治兄ちゃん」


「ん?どうしたの」


「あのね、この前康規くんからね。大人になったらお嫁さんにしてあげる、って言われたの」


「……桜子さんはなんて?」


「康規くんなら、いいなって」


「そっかぁ…」


 康規君は淑子姉様の次男で、孝子姉様の長女の桜子さんとは、当然ながら従姉弟です。

 これは、しばらく姉様たちには言わないほうがいいかなぁ。どんな反応するかわからないし、まだ子供特有のそういう口約束だろうし、うん。

 そんなことを思いながら、甥っ子たちを見て気づきました。その、康規君がいない。


「康直君、康規君はどこに?」


「え…あっ!?」


「探してくるから、真広くんと真典くんからは、目を離さないでね。桜子さん、アキのことお願いね」


 気づかなかったのか、と思う反面、まぁ、仕方ないよなぁと。立ち上がって探しに行く。

 そんな遠くには行ってないだろうとの考えに反して、なかなか見つからず。あっちこっち探し回って。対岸の竹やぶで見つけた。


「康規君」


「あ、治兄ちゃん」


「急に居なくなっちゃ駄目だよ。さ、帰ろ」


「うん」


「何かあったの?」


「あのね、これ、桜お姉ちゃんにあげたらよろこぶかなって」


 そういう康規君の手には、小さな青い花。どこでこれを見つけたのかとか、どうしてここまで来たんだろうかとかいろいろ気にはなるけれど。

 それを言うのは、僕じゃなくて姉様や義兄様の仕事だから。


「そうだね。きっと喜ぶよ。さ、帰ろう」


「うん!」


 康規君と手をつないで、来た道を戻る。川には欄干のない小さな橋が架かっています。康規君が落ちないように気を使ってゆっくり渡る。


「そういえば、どうして知ったの?」


「あのね、知らないおじさんが」


「それは言わない約束だよ」


 ふいに、知らない声が後ろから割り込んできました。振り返ろうとするより先に、どん、と後ろから突き飛ばされて。

 あ、と思った時には体が宙に浮いていて、思わず手をつないだままだった康規君の体を抱え込む。橋の上で知らない人が笑っていたのを見たような気がした。

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