第2話 兄弟の、朝はにぎやかです
僕の家の朝は、少々にぎやかです。
姉様たちはすでに嫁いでいますから、男兄弟しか家には残っていません。けれど、それでも、4人の兄と僕、それに義姉様と甥っ子。アキも入れれば、結局8人。
父と母は……僕は顔も覚えていません。僕は数年前に亡くなられた御祖父様と御祖母様に、育てていただいたようなものですから。
それはともかく、それだけの人数が集まるのでいつも朝はドタバタしています。
「ちょっと重!!俺の上着どこに隠したのさ!」
「知らねぇよ!むしろ僕の鞄どこにやった!!」
「重も理も朝からうるせぇ!どっちも居間にあるじゃねぇか!!」
離れから母屋にわたっただけで、これだけ騒がしいのでお察しください。合間合間に義姉様や甥っ子の声もするんですが、大概兄様達の声でかき消されてしまいます。
あんまり、あの状態のところに近づきたくないですが、そうも言ってられません。朝ご飯を食べるためにはいかないと。
「幸もうるさいよ…あ、治。おはよう」
「おはようございます」
「ほら、みんな座りなさいな。朝ご飯にしよう」
騒がしくとも、和彦兄様の声でなんだかんだみんなちゃんと席に着く辺りは、やっぱり兄様がちゃんとまとめてくれているんだと思います。今日の朝ご飯は、卵焼きにアジの開き。ごはんとみそ汁に、うちの海苔。
和彦兄様の膝の上には甥っ子の照彦君、彦幸兄様の膝の上にはアキ。大概、いつもその一人と一匹はそうやって、膝の上に座っています。
「理と重は、今日は遅いのだっけ?」
「ああ、僕は会合。学園祭でだす文芸誌の編集をそろそろ進める時期に来たからな。夕飯は自分で何とかするから、なくていい」
「俺も。先輩の研究を手伝う約束してるんだ。でも、俺は夕飯までには帰ってこれると思うから、お願いします」
「治は?」
「僕は…特に何も…。いつも通りです」
「それじゃあ、帰りにちょっとお願いしたいんだけれど、孝子姉さんの所寄ってきてくれないかな?お茶をお願いしてるんだ」
「あ、はい。わかりました」
良く、和彦兄様には学校帰りにお使いを頼まれます。大概は姉様の所だったり、お得意様だったり、僕もよく知っている人の所です。必ずみんなで顔を合わせるのは朝ご飯の時だけなので、こうしていつもお互い予定を確認したりしています。
アキは彦幸兄様に、ほぐしたアジをもらってにこにこしているけれど、時々兄様はそんなアキを見て悲しそうな顔をします。今だって、笑ってはいるけれど、どこか何か隠しているような顔をしている。
聞いたって答えてはくれないだろうから、聞きはしませんが。
がやがやしながらご飯を食べて。
「理、重。時間大丈夫か?確か今日は大通り工事で封鎖って話じゃぁなかったか?」
「え?あっ!!」
「やべっ!行ってくる!」
「行ってきます!!」
彦幸兄様が思い出したように言うと、理彦兄様と彦重兄様はごはんとみそ汁をかっ込んで、飛び出して行きます。二人は大学までバス通学なので、大通りが閉鎖になると、その分バスの時間もかかりますから。
……僕も大通りが封鎖になると回り道しないといけないんだった……。
「ごちそうさまでした。行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
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