第１章　異国からの奇妙な客人

　灰が舞い散るように雪が降っていた。落ちた雪の結晶は泥濘と同化して消えた。鈍色の低い空がどこまでも続いている。彩度のない世界。あたりは舞い始めた雪で白く染まってゆく。幼い兄弟を前に黒づくめの男が立っていた。手には抜き身の長刀を持っている。鍔広の帽子を目深に被った男に表情はない。

　年長の少年が凍えながら泣きじゃくる幼い弟をかばうようにして前に出た。細く、小さな手を広げて弟を守ろうとする姿が健気だった。

「こっちにくるなっ！」

　震える声で精一杯叫ぶ。男は小さな勇者をただ見下ろしていたが、刹那、長刀を振り下ろし、彼を袈裟懸けに切り伏せた。泥を跳ね上げて小さな体は前のめりに倒れた。

　弟が泣き叫びながら兄に駆け寄る。

「あんちゃん！あんちゃん！」

　倒れたままの兄を起こそうとして体を揺さぶるが、反応はない。冷たい泥に血がにじみ出してきた。その赤い色を見て、弟はまた一際大きな声で泣きじゃくる。

　不意に大きな腕が擦り切れた着物の背中を掴んで、栄養の足りていない軽い体を持ち上げた。兄の体から引き離され、地面が遠くなったのに気づき、小さな弟は何が起きたか理解できず一瞬泣くのをやめた。振り向くと、初老の男が自分をつまみ上げていた。

　その腕が乱暴に振り払われると、体が脇の畑の中へ吹っ飛んだ。凍った雪が小さな体から体温を奪ってゆく。道ばたに横たわったままの兄の体を見つけ、近づこうとしたが全身を襲う痛みで体が動かなかった。

「あんちゃん･･･」

　それでも這うように前に進もうとする。しかし、力尽きてその体は糸が切れた操り人形のように冷たい畑の土に突っ伏した。

「おいおい、二人とも殺しちゃ金を払った意味がないだろう」

「どうせ二束三文で買ったガキだろうが」

　そう言いながら初老の男は畑に倒れたままの小さな体を小脇に抱えた。

「ここでくたばるか、生きながらえて地獄を見るか」

「まったく、因果な商売だ」

　そう言って、帽子の男は血と泥に塗れた少年の姿を見下ろした。その口調に憐憫の感情は微塵も感じられなかった。

　付近には点々と貧しい農家があった。窓からほのかな灯が射している。少年の叫び声は聞こえたはずだが、誰も顔を出そうとしない。この中国東北地方の寒村では未だに貧しさのために子を売る親が絶えなかった。雪はやがて勢いを増し、泥でぬかるんだ農道を、作物の枯れた畑を、煤けた屋根を白く覆い隠していく。

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