第2話 彼女
金色の彼女もエイタと同じように他のドアが開く音に反応してこちらに視線を向ける。あまり首を動かさず流し目に見るあの視線の切なさにも惹かれた。
彼女が視界に入っただけで世界が色づき、ふとした瞬間に彼女のことを考えてしまう。今までにも誰かをかわいいと思うことはあったが彼女への思いは段違いで、この気持ちに気づいたときに人を好きになるということを知った。
彼女は手に持っていた白いブックカバーの文庫本を胸のほうで抱え……金色の髪をふわりと動かすと階段に向かって歩き始めて……すぐに見えなくなってしまった。
――始まりは季節外れの雪が降るようになって少しばかり時が経ったある日だった。エイタはあの日金色の彼女に心を奪われた。
この公民館が今よりもずっと暗かった頃……明かりが点いていないんじゃなくて空気が重かった頃、エイタも生きる目的というものを無くしていた。家族がいなくなったのが悲しくて悲しくて死にたいわけじゃないが、この先お爺さんになるまで生きていても何も楽しいことがない気がして死にたい気持ちだった。
虚無をそれだけで胸が満たされるほどに感じる生活、見えるものすべてが無色に見えた。
悲しんで泣いてる周りの人間を何故だか鬱陶しく感じることもあった。それを励ましている強い心を持った同年代の子供も。エイタは周りを励ます側だったショウゴやタイシとは距離を置いて、どこかの部屋で1人鍵をかけたり非常階段に出て何もせず日々を過ごしていた。
時にはどこかの店や誰かの家に勝手に入り、手あたり次第に壊していったりもした。食器を思い切り床に叩きつけて割った。本を破いて電気製品をバラバラにした。ホームセンターの陳列棚をドミノのように倒したり、拳から血が出るほど民家の壁を殴ったこともある。
そんな感じだったから雪が降り出した日にも何も感じなかった。公民館に住む周りの子供達はより一層泣き声を大きくして、励ましていた者も息を呑んでいた。さらに未曽有の大災害でも来るんじゃないかと不安になっていたが、エイタはそれならそれでと思っていた。
そこで、彼女を見つけた。
いつものように部屋の中でただじっと外を見ていると、雪が降る公園のベンチに傘も差さずに座り遠くを眺めている女の子がいた。公民館の隣にある公民館同様に新しくて見栄えが良い公園に、何をしている訳でもなく。
同じ年くらいの子供であるにも関わらず髪は金色だった。エイタはその姿がなんだか自分と重なって見えたのか、理由は理解できていないのに気づけば金色の彼女を生活の中で探すようになっていた。
それから金色の彼女は毎日、隣の公園のベンチに座っていた。本を読んで過ごしている日もあった。雪が強い日にはさすがに傘を差していたが、そういう日は寒くはないのかと心配になった。
何でずっと1人で座っているのだろうか気になって、自分と同じ気持ちを抱いているのなら部屋から出て公園に行って隣に……。容姿も今まで見たことがないほど可憐で、気持ちはどんどん膨らんでいった。
「ボタン外れてるよ」
金色の彼女と公民館ですれ違った時に不意に話しかけられときエイタは鼓動が跳ねた。エイタは何も言えず金色の彼女も一言だけ言ってそれで終わりだったが、生きる目的が生まれた。
――平たく言えば一目惚れかもしれないが、エイタは何かそれ以上の運命のようなものを感じた。話しかけられてからさらに3週間ほど時が経ったが、勇気が出せず再び話しかけることができていない。
彼女の名前はルリ、他の女の子から聞いて名前は知っていた。
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