キンメッキ ~金色の感染病~

木岡(もくおか)

プロローグ

 あの日見上げた空は信じられないくらい真っ赤で、誰が見ても異常で異様な景色。全人類が空を見て怯えて……何も起きない明日を祈った……。


 しかし、その次の日には青く戻った空のもとで死が始まった。


 原因不明……凶悪な感染症であることは間違いないと思われるが、来る日も来る日も――次々と為す術なく人間が死んでいく。


 その勢いは誰にも止められず、積み上げられた死体の山の前に日本の国立感染研究所も世界中の専門家たちも生あるうちに答えを見つけられず敗れ去った。


 そして、この病にはある特異な性質があった。年齢が高い者ほど病に侵されやすかったのだ。


 最初の人間が死んでから、ものの一週間でお年寄りと呼べるような60歳以上の人間は全ていなくなった。それを悲しむ時間もなく、次の週には50歳以上が全て死んでしまい、また次の週には40歳以上が全て死んだ。


 そんな具合で広がっていった病が大人を全て殺してしまったという事実を確認して見届ける者もいなかったので、実際に全滅したかどうかは分からないが――少なくとも見ることは無くなった。


 20歳以上の人間はこの世からいなくなってしまった。



 言うまでもなく、人類の歴史上最大の感染病――尋常ではない猛威を振るった謎の病は時が経つと自然と姿を消した。まるで、神が栄えすぎた人類を間引いたように……暴れるだけ暴れた後は糸が切られたように死は止まった。


 親も先生も近所の大学生もいなくなり、そのあとは同じ中学校に通う友達も半数以上がいなくなってしまったが僕はまだ生きていた。不幸中の幸いと言うにはあまりにも不幸が大きいが、小さな時からの親友も病に侵されることはなく生きていた。


 幼い僕たちは死という選択をすることもできず、とりあえず生きることに決めた。


 大人が大量に残した食べ物をお金を払わずに持ち帰り、食欲が無くて喉を通らなくても無理して飲み込む。家族の死体を埋める気力も無くて、行く当てもなく街を歩いて、毎日違う場所で体を休めた。ホテルだったり、デパートだったり。


「――私たちと一緒に暮らさない?」


 そんな毎日の中である日出会った女の子が僕たちにそう言った。


 言葉に従った僕たちを女の子は大型の公民館へ案内した。そして、数少ない生き残りの子供達との共同生活が始まった……。

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