横殴りなら仕方ない
「それは、この先輩が横殴りしてきたんです!」
水澄後輩の力強い主張がぼく達の他に人のいない空間に響く。
無罪を主張する弁護士のような振る舞いだ。
ネックハンギングから床に叩きつける程度、
法治国家どこ?ここ?……
うん?【横殴り】?
「……【横殴り】ってことは、彼と水澄後輩はもしかしてVRオンラインのプレイヤー?」
「そうです!前にセンパイから『オンラインゲーム』や『RPG』の事を教えて貰ったとき、横殴りとトレイン仕掛けたプレイヤーは
脳裏に
「そっか、横殴りなら仕方ないな。殺されても文句は言えない。」
こくこくと笑顔で頷くな。ぼくが、同類だと思われたらどうしてくれる。
さてと、横たわる彼の生死を確認して場合によっては
後輩に任せて露見してから、教唆したと供述されると困るからな。
後輩の
さてと、彼の脈でもとるか……
「おっと?」
脈がないな。うまく血管に触れられてないのかな?
呼吸はどうだ?……
「おやおや?」
鼻と口の前に手を置くが、手に当たるべき感触。呼吸の空気の動きが感じ取れない。
「おやおや、おやおやおやおや」
冷静になれ、ボ○ドルドしてる場合じゃない。
「死んでるな」
「はい!殺りました!」
元気がよろしい。
「さてと、学校裏の山に埋めるか。園芸用の分解促進剤って校舎のどこにあったかな?」
うまいことやれば、腐敗を進行させて骨だけに出来るだろうか。
「ちょ、ちょっとセンパイ!ゲームで死んでるだけですよ?!」
あぁ、水澄後輩よ。ゲームと現実の区別が……
「イヤホン外して、ここ見てください!」
イヤホン?そういえばVRオンラインのアプリは起動してたな。
いい狩り場を探して歩いていたから、起動していることを忘れてた。
すぽんとイヤホンを抜いてから視線を向ける、先程まで遺体があった場所……そこに何もない!?
「横殴りしてきた先輩はたぶん、もう帰りましたよ!」
「うぇ?!」
な、なんだってー!?
「ふふっ、
「前のアップデートでPVPが追加されたんですよ。あんまり大きな告知ではなかったですが。」
聞くとPVPモードでは本人たちは隣り合って座るだけで実際の戦闘は
リアルで乱闘させるわけにもいかないからな。体を動かすのはモンスター戦のみになるのか。
さっきまでの死体は幻影で、本人は既にどこか別の場所に行ってるなんて思いもよらなかった。
ちょっと告知情報をさかのぼると詳しいルールも見つかった。
PVPは同じモンスターに対して攻撃をした場合には、申込みされた者は拒否出来ない仕様だそうだ。
今回のように横殴りが確認できたら、好きに喧嘩を売れるという、とてもハッピーなシステムらしい。
PVPの敗者は強制ログアウトとその日のアプリ版再ログイン不可のデスペナルティがある。
逆に勝者は経験値・ドロップ率にバフがかかる。更には、敗者がその日ドロップしたアイテムから好きな物を一つコピー出来る。
これからプレイヤーが増えることで狩り場のぶつかり合いが増えて、こういった決着方法が必要になってくるのを見越しているのだろうか。
勝者のバフ・アイテムコピーは一度戦ったことのある相手では一定期間発生しない、敗者が勝者にゲーム以外で手を出した場合はアカウント停止処分が下るなど細かいルールも色々あるようだ。
「水澄後輩が人として越えてはならない一線を越えたのかとドキドキしたよ。」
「ナチュラルに死体の
ドキドキ(前科者疑惑・不信感)ですね、わかります。
この場所は後輩が狩ったみたいだし、ぼくは今日は諦めて帰ろうかな?
別にアプリの方はアドバンテージとしてやり込んでおくに越したことはないが、やらなきゃいけないもんでもない。
よし、帰ろう。
「それはそうとして、エルさんもセンパイも久しぶりですね!イベントの様子、リアルタイムで見てました、すごかったですね!」
後輩とエンカウントしているので帰れないようだ!
冗談はさておき、久しぶりに会ったし少し話してから帰ろうかな。
キラキラとした目でコチラを見てくるが、この子は以前ぼくに宣戦布告してきたヤベー女の子だ。
普通後輩から向けられるキラキラは憧れとかキレイな光なのだろうが、この子のキラキラは刃物のそれだ。
「類は友を呼ぶし、焚き付けたのもラティでしょ?」
まぁ、エルの言う通りなんだけど。
「さっき殺した先輩はいい練習台になってくれましたけど、あの映像のセンパイはまだ殺せる気がしなかったです!」
「そりゃ学校とゲームの先輩として、そう簡単に殺られはしないぞ。」
やっぱり前に会ったときより、この子は自然体に
容赦なく他人に攻撃出来るゲームの環境がいい刺激になってくれたのだろう。
先輩として嬉しいばかりだ。めっちゃ殺意高いけど。
「今は何レベくらい?装備は何を選んで使ってる?【オリジンスキル】は?【心象スキル】も作れた?」
「えー、教えませんよ?
「後輩はイベントの様子観てるのに、ぼくだけ何もなしはズルくない?」
クスクスとイタズラっぽく笑う後輩の笑い方は、楽しそうだがイジワルさが含まれていた。
よほどの隠し玉を持っていると見た。何が来ても驚かないようガンバろう、先輩として余裕で対応してやる。
「楽しみに首を洗って待っててくださいね!」
「一応イベント準優勝者の首だ、安くないぞ。そう簡単にはあげられないなぁ。」
万全を期して殺しに来る相手、それを踏み越えて……いや、踏み潰すのは楽しそうだ。
お互いに笑顔が深まっていく。やっぱりおんなじ
少し話し込んじゃったな、そろそろ帰ろうかな。
「さてと、後輩が順調にゲーマーとして成長してるのを見れたしぼくは帰ろうかな。」
「あ、じゃあご一緒していいですか?また、センパイからオンラインゲームで起きたトラブルのお話とか聞きたいです!」
ふむ、前回は狩り場でトラブルになり難いような立ち回りを教えたな。
「よし、じゃあ今回は対人関係の泥沼化を話そうか」
「ありがとうございます!また、校門で合流しましょう!」
昔遊んでたゲームで起きた、ギルド内&同盟ギルドのメンヘラ問題児が一堂に会し絡みあって関係各所を巻き込んだネット恋愛6股地獄絵図を語ろう。
「そういうわけだから、エルまた夜に会おう」
「はぁ、出番無しか。まぁ夜まで休んどくよ」
エルもぼくと同じように疲れてたのか……やっぱ今日は無理に暴れなくて正解かも。
そうして帰り道は水澄後輩と
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「ただいまー」
帰宅して靴を脱ぐ、そしてふと気づく。
思えば年下とはいえ同世代の女の子と自分が話してる時間としては最長記録かも?
「まぁ、どうでもいいか」
後輩と話すのは楽しいけど、トキメキで言えばヒメプお嬢さんを擦り潰すように殺した時や、睡眠不足なお姫様にカウンターでぶん殴られた時の方がトキメイてた。
……?あれ?
もしかして、血とか暴力がないとぼくって心が動かない?ウッソダー。
クスっと笑っちゃう。
「だいたいあってる。」
家族のおかえりなさいの声に応えながら、ぼくは何食わぬ顔でリビングに向かった。
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