男子三日会わざれば刮目せよ。いわんや女子においてをや
邪神と話してから、ログアウトした。
準優勝なんだから賞金も持ってきなよと、500万Gのゲーム内の金を渡された。
これから、リアルマネートレードの実装で現金化出来るようになるとも言われた。あんな話を聞いた後に言われて、整理するのに頭を使ってたから詳しい換金率とかは聞き逃しちゃったけれど。
そうして、ぼくは祭りを終えて朝を迎えた。
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リビングではテレビから朝のニュースが流れてる。
昨日の余韻があって、フワフワして地に足が着いてない気持ちだった。
ボーッと聞き流してるだけだったが、次のトピックにぼくの意識が引っ張られた。
「昨日行われました『【Variable Real Online】武闘大会』が世界的に注目されております。
プレイヤーを現在日本人に絞っており、現状在庫も少なく入手困難な為に謎の多い話題作とされる本作。
今回の大会が大々的に内部の映像を公開するイベントは初の開催になり、物議を醸しています。
CGよりもリアルで実写のような戦闘シーンへの真偽をめぐっての論争や
出血、ゴア描写への規制についても批判・疑問の声が上がっている模様です。
実際の映像を観ていきましょう。
……派手なエフェクトの魔法や技が現実さながらの世界で飛び交ってますね……
そして、確かに血とか飛び散るシーンや人が真っ二つになるシーンもありますね。」
映像では他ブロックの予選の様子だろうか、多くの人が魔法を撃ち合ったり、スキル同士を激しくぶつけ合うなど映画さながらの戦闘を行っている。
あ、あれぼくだ。
目元にうっすら影みたいなのが差していて顔は全体が見えなくなってるけれど。
すっごいイイ笑みで禍々しい左腕を対戦相手にブッ刺した!槍も刺して!
グチャグチャと箸で肉を切り分けるような感じで、お嬢様風の女の子が真顔で上下に分断された!
途中で魔法で顔を、焼かれていたがそれでも始終笑顔だった。
……客観的に見てこわっ!ぼくこわっ!
女の子の方は顔出してる。配信とかプライバシー設定みたいなのがあるのだろうか?
今度メイカさんに聞いてみよっと。
「いやー、最近のゲームってのはすごいんですねぇ。最初の映像なんてファンタジー映画って感じで、トレンドになるのも納得ですねぇ。
でも、あとの映像、あれは確かにグロいですねぇ。断面とかは描写しないでくれてはいますが、教育に良くないのではないかと思いますねぇ」
「すぐ教育がーとか言い出すのは、いつでもおじさんのトレンドですよねー」
「はい!次のニュースです!」
若手とベテランコメンテーターがギスる直前、笑顔でアナウンサーさんが話をぶっちぎって場を流した。
朝から人の醜さを見せつける番組だなぁ。
モソモソとトーストを牛乳で飲み下し、朝食を終えた。
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昨日の大会の余波を引きずりながら、重たい頭で教室へ向かう階段をのぼる。
体感時間を何倍にも引き延ばして行われたイベントだから、なんらかの反動がきているのかもしれない。
……健康問題が無いことを祈るばかりだ。
「ぉはよー」
挨拶も適当になる。教室の引き戸をガラガラと力なく開けると喧噪が耳につく。
教室入ってすぐの僕の席にカバンをおいて、中身を机に移している。
後ろの席の中川とその隣の田中がおしゃべりしてるのをBGMにしながら、少しでもダルさを解消すべく机に腕を枕に突っ伏した。
「昨日のVRオンラインの大会やばかったよな」
「いやー俺も参加したかっ……あ、黒い腕の人とカチ合わないなら」
「……うん、真っ二つにされたり端っこから食べられちゃうのは遠慮したい」
なんか噂されてる気がする。よくないイメージで。
いや、戦闘系のイベントで猛威を振るうのはむしろイベントの趣旨に沿った行動だったはず。つまり、ぼくこそが、一周回ってまじめで善良なプレイヤーともいえるのではないだろうか。
「街中で会いたくないようなヤベーやつだよな。
あんな凶悪なプレイヤーがいるなんておっかな「あ゛ぁ゛?」くないですぅ……」
おっと、つい。
なんで睨まれたのか分からない級友は疑問符を浮かべながらビビり散らすという高度な顔芸をしている。
睨んだ理由を説明しないと話題の人物がぼくであるとバレてしまう。
「おいおい、田中くん、
あくまで話題に出た人物は自分ではない感じで取り繕った。
「お、おぅ(それ以外でなにで判断すればいいんだよ)」
「わかってくれて嬉しいよ」
うんうん、ひとの悪口は良くないよね。
その後は彼らも≪ある≫プレイヤーを悪く言う事は無く、
純粋にVRオンラインへ参加したい、自分ならこんなスキルが欲しいといった事を語り合っていた。
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放課後になり、『VRオンライン公式アプリ』を起動する。
大会の前まで準備として毎日モンスターを狩っていたら日課のようになっていた。
モンスターを探しに、スポーン場所になる人のいない空き教室を巡るのも慣れたもんだ。
しかし、プレイ人口が増えたからか、既に教室に誰かいて戦闘している場面に何度も出くわしてしまった。
教室によっては口論っぽい声が、聞こえてくる場所もあって殺伐としてる。
ネトゲの狩場の取り合いが現実でも起きるとは……
そうして、教室を見回ってると、いつもなら最後らへんに辿り着く武道館まで来てしまった。
いつも最後に来るようにしているのはゆっくり回んないと、剣道部とかが部活してたりするからだ。
幸い今日は早めに部活が終わってるのか、声とかはしてない気がする。
斬りかかるときの叫びがしないなら、部活は終わってるだろう。
「おじゃましまーす」
一応、声をかけながら玄関を抜けて入っていく。
畳の張られた広い空間まで来るとうめき声がした。
あら、まだ人がいたか。
柱に隠れて誰がいるのかは見えなかった、もう少し近付くと。
「あ、センパイ!お久しぶりです!」
ガタイのいい男子高校生を、女子中学生が片手でネックハンギングしてるシーンと出会う事になった。
「ちょっと待ってて下さいね!」
彼女の片手に吊るされていた男子高校生が畳に叩きつけられ、完全に意識を手放した。
「お待たせしました!」
前髪が乱れてたのを直すくらいの気軽さで待たされたけど、だいぶヴァイオレンスだったぞ。
それはそうと、なんだっけこの子の名前?全然、出てこない。
「ごめん、久しぶりすぎて名前が出ない。名前言っちゃだめとかある?もしかして、ヴォ○デモートさん?」
「違います!ヴォル○モートじゃなくて、水澄です!
あ、思い出した。作り笑いが下手な子だ。でも、今日は違った。
「あぁ!ごめんごめん。笑顔が前よりステキになったから思い出せなかったよ。」
男子高校生をネックハンギングしてる時の笑顔がなぁ!
「あ、ありがとうございます…?」
少し照れながらお礼を言ってくる彼女は、さっきまでの光景を見ていなければ、女子力(物理)系女子は思えない普通の子だった。
「ところで、なんで彼は転がされてるの?」
畳の上で物理的に女の子の手で寝かしつけられた彼を指差して問う。
「それは……」
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