静かに02

プロローグ 404 Not found

「お父さん!」


 掲げる左腕の口から悲痛な歓喜に溢れた声がする。

 この声を届けたくて、ここまで来たんだ。ぼくとしても感慨深い。


 果たしてリアクションは?


「ほぉ、No.7か。なぜ封印したはずの君がここにいるかはさておき、久しいな。

 褒美はNo.7についての情報か?なるほど、なるほど……」


 オリジナルだからかちゃんとエルを知ってる!覚えてくれてる!!


 ただただ、よかった。


「お父さん、ここまで来ました。ようやく会えました。」


 ポロポロと左腕中の瞳から涙が溢れる。温かく見守ろう。


「あの時、封印される前に行き場の無い怒りも感じましたが。何より……っ!」


「あの時からずっと、貴方に手を伸ばしたかった。」


 僕の意思に関係なく左腕が空を掻く。

 その手は、渇ききった人が水へ手を伸ばすようにひどく切実で、必死なものだった。


 その様を見て神は無機質に呟く


「おかしな事だ、いやある意味正しいのか?」


 そこに感動らしきものはない、実験体のリアクションを観察してるようにしか見えない。


「No.7が何故こうも、したのか、実に興味深い。そもそも封印処置が何故解除されたのか?そして、プレイヤーと一緒なのに何故情報が私に届かなかったのか……封印解除コマンドを知るのは私しかいないはず……いや、も私か。なるほど、なるほど。一度他のナンバリングエネミーも何処にいるか確認しなければな。」


 なにかブツブツと呟いている。

 その眼中にエルはいない。


 オレは歩き出した。

 カツカツと音を立てる床、それでも神はこちらに注意を払おうとはしなかった。


 左腕を大きく振りかぶる。


 ガギィィィン


 振り下ろされた手は届かず。

 神の前にはバチバチと火花を散らす障壁があった。


「なぁ、アンドレイさん?感動の再会じゃないの?」


 どうしたの?目が見えないの?近付けてやったぞ。

 ほら、見ろよ。


「おい、ラティやめろ!お父さんに手を出すな!!」


「なら、なんでを出す?!」


 今にも降り出しそうな濡れた声で制止する相棒に苛立つように返す。


 それを受けても、傲慢な神は表情を変えなかった。


「あぁ、すまない。感動の再会だったな。

 愛すべきだが、忌わしきよ」


「え?」


 障壁から覗く。アンドレイの顔は冷たく無機質なまま動かなかった。


「お前は確かに私の子であるが、同時に私の敵の子でもあるのだよ。中々説明が難しいな……勝手に解放したに任せるか」


 なんだそれ?


「なんだ、それ?……じゃあ、お前はエルのお父さんじゃないのか?」


「いや、お父さんだとも。だが、同時にそうではないのだよ。」


 訳がわからない。


「感情的になる相手に私から説明するのは、やはり面倒だ。アイツならこうすれば回収してくれるだろう。」


 混乱するぼくたちに向けて指をさして、感情の無い声で告げる。


「『eject object』 対象 プレイヤー Laty」


「ちょっ!!」


 唐突に現れた真っ黒な穴に吸い込まれて、ぼくたちはどこかへと落とされてしまった。



_______________________


 無限にも思えるほど落ちてトプンと柔らかく何かに沈み込んだ。


「!?」


 衝撃にゴポゴポと悶える。しばらくして、この黒い液体の中で息ができることに気付いた。


「なんだここは?」


 液体の中にいる感触があるのに息が出来て声もぐわんぐわんと反響している。


「……」


 左腕あいぼうは父親に再会の喜びもなく、こんなとこに落とされた事にショックを受けているようだ。


 そりゃそうだろう、仕方ない。

 纏わりつく闇の中をかき分け、無言で歩き出した。


_______________________


 暗い、光の概念さえ忘れそうな闇の中。まっすぐに歩き続ける。

 まっすぐなのかも自信が持てないのだけど、進めてると信じて足を運ぶ。


「まぁ、気を落とすな。なんて言えないのは分かってるけど。なんか理由があってここに落とされたんじゃないか?」


「……理由?」


「落とされる前にブツブツ呟いていたろ?その中で説明って言葉が聞こえた。なにかエルの事についてヒントになるからココに落としたんじゃないか?」


 少し考えて、エルは返した。


「ムダだ」


「なぜ?」


「ここには何もない、この場所は。以前私が閉じ込められていた世界ゲームの外側だから」


 ……あれぇ?詰んでない??




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