斬殺平原 エッジウェイにて

 東の門番のお兄さんの案内にしたがって、

 特に迷わずに北の門に着いた。


 いざ行かん、『斬殺平原 エッジウェイ』!


「通りまーす!」


「いやいや、止まりなさい!」


 門から出ようとしたらおじさんに捕まった。


「そこから先は、熟練の冒険者か、護衛を雇った者でないと死んでしまう危険地帯だ!止まりなさい!」


 門番に至極真っ当な注意をされてしまった!


「これからここで鍛えれば熟練の冒険者になるので、大丈夫です!」


 ラティの屁理屈!


「それって今は装備通りの初心者だよね!?」


 効果は今一つのようだ!


「……えっと、…いってきます!!」


 ラティは逃げ出した!

 門番おじさんの善意の忠告は、ありがたいが聞こえないふりをした!


 _____________


 門から出て、道なりに進むと雑草の青臭い匂いがぶわっと風に乗ってきた。


 道は緑に侵食されかけている物に変わり、道の両脇を膝下20cm程だろうか、そこそこの高さの雑草が生い茂っていた。


 一部の草には刃物で刈り取られたような後が見える。誰か道の維持のために草刈りでもしてくれているのだろうか?


 道も残ってるし、視界もそこま悪くない。

 斬殺平原なんて物騒な名前の場所がここであってるのか?

 そんなに苦戦するエリアなのだろうか?


「ラティ、何か来ます。」


 エルの呼び掛けに短槍を構える。

 左腕エルも街中に合わせた擬態形態を解除して、異形の左腕に戻す。


 さぁ、どっからでも来い!


 がさり


 茂みが揺れる音がした。

 振り返るとウサギがいた。


 耳が異様に長く、若干後ろ足が筋肉質ではある。しかし、まだ小動物系の可愛らしさもある生き物だ。


「…ウサギだ」


 そいつを認識した瞬間、警告音と共にホロウィンドウが情報を伝えてきた。


『エンカウント!辻斬リッパーラビット!レベル差が大きい相手です、撤退を推奨します。』


「え?」


「危ない!」


 呆けるぼくを左腕エルが地面を掴んで引き倒す。


 しゅぱんっ


 軽い音と共にさっきまで立っていた辺りを目掛けてウサギが跳び跳ねていた。


「次!足元狙いくるぞ!とべっ!」


 矢継ぎ早にエルから指示が飛び慌ててジャンプする。


 しゅぱんっ


 足元を黒い影にしか見えない速さでウサギが跳ねる。


 勢い余ったのだろうか道を外れ、草むらまで

 飛んでいった影が雑草をのが見えた。


 道の中途半端な草刈り跡は、このウサギと何かが争った形跡なのか!


 草むらに入ったことで一度ぼくを見失ったからか動きの止まったウサギを見て


「エル!待望の殺し合いだ!」


「待ってませんが…」


 小動物らしいちょこまかとした動作で辺りをキョロキョロしたウサギがこちらを見つめ直す。


 後ろ足が一瞬 緊張 溜めの動作

 来るッ


 ひゅんと迫ってくるウサギに合わせて右手の槍を振り払う。


 キィンと金属のような音を出して長い耳に弾かれる。腕に痺れが走る。

 まるでバッティングセンターで硬球の豪速球を打ち損じたような手応えだ。


 なるほど、耳の外側がよく見れば銀色の光沢を纏ってる。長い耳が刃になっているのか。


 空中で身を翻したウサギを見て思い付く


「来いよ!!今度はホームランにしてやんよ!」


 速さが自慢であろうウサギを煽る。

 言葉は通じてないだろうがバカにされてるのは感じるのだろう。

 つぶらな目を怒りに濁らせながら突っ込んでようとする。


 が、ようとするのがわかるなら

 後はタイミングを逃さなければどうとでもなる。


 は短槍をクルリと手の中で持ち替え。


「よいしょっ」


 ガンッ


 のように下から上へと打ち上げた。


 咄嗟にスイングを耳で受けたのだろう、ウサギはさっきよりも高く宙を舞っている。


 そこを 左腕エルで首根っこを捕まえた。


「私も込みですがひどい絵面ですね…」


 ズルリと伸びる闇色の腕にはもはや見慣れた目玉達や、主であるオレをニマニマと嘲笑うかのように歪められた幾多の口が浮かぶ。

 この禍々しさは他人から視れば確かに邪悪である。


 それが中空に小動物を拘束している。

 怯えた目をしたウサギさんが可愛そうでもある。酷悪である。


 青年オレは右腕には槍を構えている。

 容赦なく穂先はウサギのくびもとを狙ってる。小動物特有の脆弱な骨格構造を慈悲無く破壊する予定。動物愛護団体には見付かりたくない凶悪犯な行動である。


 悪フルハウスである。


「ほんとうにひどい絵面だ…」


 手元で涙目でプルプルするウサギを見て


「まぁ、いっか」


 シッと呼気を込めて突かれた槍は頸へ、あやまたず吸い込まれる。


「キュピィッ」


 ガンッ


「固いな…レベル差があるからか?」


 可愛らしい外見に似合わず固い。

 白兎だと思っていたが、よく見ると毛皮にもちらほら銀色の光沢がある。耳は特別鋭い刃物の様になっていて、他の部分もある程度金属のような固さのある毛が紛れてるのか。


「まぁ、10ダメージでも100回殴れば死ぬんじゃない?真綿で撲殺してるみたいで罪悪感はあるけど」


「エグいことしますね…人間はやっぱり恐ろしい…」


「うるさい、お前も片棒を担ぐのだ」


 シッ

「キュピィッ」

 シッ

「キュピィッ」

 シッ

「キュピィッ」

 シッ

「キュピィィッ」


 うーん?

 ウサギの目が死にかけてる…

 一思いに殺れずに申し訳ない…


 まぁ、諦めろ


「せっかくだからこの動作【持たざる者】に登録してもらうか」


 _____________


【持たざる者】


【効果】

 通常攻撃に自身で型を登録可能になる。


 登録した攻撃は物理攻撃系スキルと同様にMPもしくはHPを消費して発動可能なアクティブスキルになる。


 しかし、アクティブスキルとしての威力の補正は技の完成度に左右される。

 また、通常の物理攻撃スキルと違いシステムの行動補正を受けられない。


 技の登録可能数はプレイヤーレベルまでとする。


【代価】


 スキルポイント:300

 通常物理攻撃スキルの獲得不可


 ≪を棄てた者。非常識を得る者。研鑽けんさんの極地、無を有と変えよ≫


【動作登録】

 _____________


 一番下に増えてる項目がそれっぽいので

 タップ。


 今回登録する動作は

『1:左腕で対象を固定

 2:右手の槍にて急所を突く』


 完成度判定ポイントは


『1:急所をどれ程的確に突けるか。

 2:体重移動の精度、槍の加速を限界まで行えているか。

 3:その攻撃に命を奪う覚悟はあるか?』


 …問題なし、登録!

 え?技名要るの?


 うーん、押さえつけて攻撃…あ!


我駆道がらんどう【クルミ割り人形】が登録されました。』


 システムに登録すると我駆道がらんどうと余計な文字が入っていた。


 …がらんどう?持たざる者だから?

 当て字がひどくて普通読めないが、使えれば

 今はいいか。


 よし。


【クルミ割り人形】発動


 対象を左腕で固定、完了。


 脛椎を狙う、完了


 すぅと息を吸い


 槍を持った右腕を引き絞り後ろに軽く重心を

 落ちきった重心を弾ませるように前へっ!


 シッ と短く呼気を吐き出し、

 右腕を回転を意識しながら前へ突き出す!


 !!


 攻撃スキルもどきの発動により先程より


「ピギュィィイイッ」


 先程より痛烈なのだろう、ウサギの悲鳴が漏れる。


我駆道がらんどう【クルミ割り人形】発動!クリティカル!!』


 白銀の毛皮からはあかが滲み、レベルの差がスキルで少し埋まったことを感じさせる。


 さっきのスキルなしよりも格段に気持ちのいい手応えに


「ヒェッ」


 左腕から声が聞こえた気がするがウサギの吐息かな?


 気にならないくらい気分がいいし、またスキルを使おう。


 オレは無言で笑みを浮かべながら、スキルを使いウサギに全力で槍を突き込み続けた。



 およそ10分後 ウサギは光と消えて、ぼくはウサギのドロップと経験値を手に入れたのだった。



 そして、もう一度同じ戦法を取ろうとしたが、今度は時間差で現れたウサギに背後から首ちょんぱされるのだった。


 称号スキル【臨死体験ソムリエ】が発動するも首が地面に落ちてて動けなかった。


 純粋に首を落とされた後の痛みを10秒感じられるだけの状態に……


 再形成しにもどりする間際に左腕エル

「悪は滅びた」と呟いた

 …お前も構成要素ぼくのいちぶだからなとツッコむその前に意識が暗転した。

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