無限の有限


 再戦の準備は整った。


_____________


【Name:Laty】

 種族:ヒューマン


 称号:『臨死体験ソムリエ』『持たざる者』


 LV:0


 HP:1

 MP:110


 STR(力):5

 INT(知力):5

 DEX(器用)5

 AGI(敏捷)5

 MIN(精神):5

 VIT(頑強):5

 SP(スキルポイント):100

 VAR(拡張性):100+1000-300=800


 スキル:

『愚者の傲慢』

【効果】パッシブVAR+1000

【行動】常時痛感軽減設定無効


窮鼠キュウソ猫喰ネコグライ

【効果】パッシブ攻撃計算時確定1ダメージ

【行動】HPを常時1に固定する。

 VARコスト300


_____________


『negatio-lux≒esse』も待ちくたびれてるだろうし!早くリベンジマッチだ!


合開始の合図をお願いします!」


「(この子こんなバトルジャンキーだったでしょうか?)

 は、はい。それでは戦いなさい『negatio-lux≒esse』」


 G,GisyyaaaaAA!!


「よし!来い!」


 前回同様に浮遊して接近してくるが、

 今回は前回と違って警戒の色が見える。

 …気圧されている?


「ビビってんじゃぁねぇッ!!!」


 の方からも駆け出して

 距離を詰める。


 親指の付け根の外側と云えるだろうか、

 異形とはいえ掌を真似ているのだから

 間接構造的に攻撃しにくい位置。

 そこを人でいうふところに見立てて

 自分から突っ込んでいく。


 浮遊している腕との位置関係として

 左上へのハイキックが

 掌の目玉へと突きささる。


『スキル発動!

 窮鼠キュウソ猫喰ネコグライ発動!

 防御無視ダメージ!』


 ヨシッ!まずは一発


 GaaaAAA!?


 真っ黒しかないが本人(?)的には

 目を白黒させていることだろう。


 一度距離を取ろうとタメを作ったヤツを

 逃すまいと、

 オレは伸ばした手で皮膚に全力で爪を立てた。


『攻撃判定!

 窮鼠キュウソ猫喰ネコグライ発動!

 防御無視!』


 片手の指がとんでもなく硬いはずの皮膚に

 本当にほんの少しではあるが食い込んで離さない。


 上昇する『negatio-lux≒esse』と

 しがみついて天井げんかいこうどまで

 飛んでいく少年。


 落ちたら即死は免れない高度に達し、

 上昇を止めた異形の腕は、地面に裏拳を放つ様に異物の圧殺を試みる。


 その間、傍観者に徹していたメイカは

 しっかりと見ていた。


 叩きつけられるその一瞬まで、

 殴って 蹴って 囓りついてでも

 本気で殺そうとしている少年の姿を。


 _____________


 痛いなんて言葉では表せない


 知りたい人はスカイダイビングやバンジーの途中で紐やパラシュートを切れば再現出来るだろう痛みだ、是非体感してみてくれ。


 叩きつけられた時の圧迫感から、

 圧に耐えきれない身体の構成こっかく部品ぞうきが弾けとぶ激痛・内部から部品ぞうきの破壊される水風船が体内で割れるような感触は文字通り筆舌に尽くしがたい、

 おぞましさだった。


 激痛に一瞬強制 終了ログアウトの文字がチラついた。


 気合いで戻ってくる。


 不親切な位置に再生成される肉体を

 ネコのように着地させ


 


「リベンジだッッオラァァァッ!」


 驚愕に目を見開き、息を呑むメイカさんを横目に


 オレを退け、ひとまずの人心地ついてる異形まで駆けつけ

 ドロップキックをかます!


『攻撃判定!

 窮鼠キュウソ猫喰ネコグライ発動!

 防御無視!』


 完璧に油断していた『negatio-lux≒esse』が揺らぐ。


 Gi,GaaaAAAァァアア!!?

 HikiョヨォォoOッダ!



「!?、喋れるの!?

 に油断していたのはオマエのミスで不意討ちは卑怯じゃなぁぁい!」


 ドロップキックの勢いそのまま組み付き異形の身体にきばを立てる。


 さっきの戦闘(?)で学習した


『攻撃判定!

 窮鼠キュウソ猫喰ネコグライ発動!

 防御無視!防御無視!防御無視!防御無視!…』


 握りつぶすや、噛みちぎろうとするなど継続的にダメージを与えるような効果にももちろんスキルの【効果】は乗る。


 結果


 とんでもない頑強さを誇るはずのバケモノの皮膚が、人間の歯などというありふれた凶器の前に


 囓り取られる。


「あんまり美味しくないね!」


 いていうなら口内炎のような、薄めの血の味とゴムタイヤを噛んでるような、まぁイケなくもない。


 の振り払う動作に上手く乗って一度離れる。

 また、ジャムのイチゴの同類にされかねない。


 振り払ってから

 怯えるような目でこっちを見る

 化け物を見つめ返して


「レベル0だ、一方的になぶり殺せると思ってたか?

 残念、殺し合いに必要なのは力じゃあない。

 相手をって意志と最後までそれを持ち続けることだけ」


 独り言のつもりだが届いてたようで、

 に光が宿る。


ぞ、ビビるなッ!殺しにこい!」


 GiSYAAッァァァアア!!


 先程とまでとは違い、人間エモノ人間テキと認識出来たのだろう。

 ただの近接戦闘の気配は無い


 キィィイィィイィィイ…


 耳障りな音、どこから?


 見るとヤツの掌の目玉に

 紫や黒といった尋常でない色の光が集まっている。


「絶対、あると思ってたよッ!」


 慌てて身を投げ出したところを

 分厚い闇色の光の束が凪ぎ払う!


 シュィイインっ


 空気さえも焼け切るような鋭い音は、圧倒的な熱量エネルギーを予感させる。


「ご安心ください、この空間は破壊不可能オブジェクトです。存分に殺し合ってどうぞ。」


 どこか呆れたような声でメイカさんが言う。


 確かに壁や床が赤熱してる様子はあれど、溶け出したりはしていない。


 大技《ビーム》を使ったヤツは、冷却が必要なのか目を閉じている。

 恐らくオレが死んだかどうかも見えない技なのだろう。オレを殺しただろうと油断している様子だ。


ったか?!』って思ってるのだろう、それは人間の世界じゃ殺られるフラグなんだぜっ!



 好機チャンスッ!ダッと駆け出し、噛み千切った傷痕きずあとに目掛けてき手を放つ


 ガッ!?


 まるで、オレがさっきした様に、ヤツは後退して回避した。

 そのまま指先の口から伸びる舌を、鞭のようにしならせオレの胸を打った。


『システムメッセージ:ヒット!9999ダメージを受けました!HPが全損しました!』


 空中で呼吸が出来ないような痛みを味わいながら意識が一時なくなる。


フラグを踏んだのはオレの方だったみたいだ。



 _____________


 一部始終を観ていたメイカは、少年が死亡して消えて、リスポーンと同時に駆け出すのを引きつった表情で見送る。


 今の少年ラティは文字通り死ぬほどの痛みを、システムの防御かご無しで受けている。


 余りに壮絶で、無謀で、狂暴な戦い様、どちらが化け物なのか見分けがつかない。


 夢の中で頬をつねっても痛みがあることがあるように、仮想かりそめの痛みでも痛いものは痛い。


 ましてや


 この遊戯ゲームは、まごうことなき狂気の産物。

 本当に、ゆめをゲームに、作り替える代物シロモノなのだ。


「明日、木更津くんの本体が死んじゃってたら、創造主マッドサイエンティストがもう捕まっちゃうかしら」



 AIは深く思考えんざんするのはやめた。


 ただ、遠い目で狂気の中で暴れ続ける

 二匹の化け物を眺め続ける。


 _____________


「ゲボォッ」


 の鋭利な爪がオレの腹を貫通するのは果たして何度めだろうか?


 だいぶ慣れてきた血の味と臓腑が腹からこぼれ落ちる感覚を遠く感じながら、

 意識を手放して


「よっ」


 引き戻した意識が身体を突き動かす。


「バケモノ メッ!!」


「オマエもなぁッ!!」


 喰い千切られたあとがいくつもあり

 全身からこぽこぽと暗色の液体を流す

『negatio-lux≒esse』


 コイツは何度も何度も何度も何度も何度もオレを殺す中で

 バケモノの咆哮しかあげれなかったのが、片言で耳障りなものの人の言葉を話せるようになっていた。


 もう、幾千もの死と再生を経験してるオレと


 死んではいないものの、幾千ものダメージを受けているヤツは、

 お互いを殺し合うことに全力を尽くしていた。


「楽しいなぁッ!」


「キグルイ メッ!ザレゴト ヲ!」


 言い合いながらも

『negatio-lux≒esse』の五本の指にある

 口は弧を描いている。


 本当であれば、何もない退屈な異界で、プレイヤーが相当強くなってくれるまで封印されるだけの生活を送るはずの存在だ。


 暴れられるのが嬉しくない訳がない。


 ずっと現実リアルでは封印されていたような物だ、暴れたくとも周りの目を気にしたり、そもそも攻撃する対象を見付けられない。

 心の何処かにある欲求を満たすことをゲームに求めてた。

 画面の中に入り込めるゲームを求めていたのは本当はなんだろう。


 だから


「「コロシテヤルッ!!」」


 今をお互いに楽しもう!


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