第6話入学試験
俺は2人が早めに寝静まった後、宿の店主に剣の鍛錬をしたいと申し出て、1人宿の裏にある庭で剣を振っていた。といっても自分の剣じゃなくて宿から貸してもらった重り付きの木刀なのだが。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ」
前までは剣に振り回されてた感じがするのに今はしっかりと剣を振り回せてる感じがする。
俺は納得がいくまで剣を振り続けた。
少し休もうかと思い、庭にあったベンチに座る。ふと上を見る。
そこに広がっていたのは、雲ひとつなく月も出ていない、無数にキラキラと輝く星々が見える大空だった。ずっと眺めていると吸い込まれそうな気さえしてしまう、そんな大自然が俺の双眸に映った。
「綺麗だ」
俺は思った事を口にした。
「そうだね、ノルン=ヘルリッヒ」
後ろから見知らぬ声がした。俺は反射的に立ち上がり後ろを見る。
俺の双眸に映ったのはお面を被っていて、髪は俺と同じ白色の長身の人物だった。
「……あなたは誰?なぜ俺の名前を知っているんですか?」
「僕は奴らに見出された者。なぜ君の名前を知っているかって?奴らに教えてもらったからだよ」
男性だと思われるその人物は俺の問いに丁寧に答えた。
「奴らって誰のことですか?」
「君なら分かるでしょ?『魔力回路』って言えば分かる?」
その言葉に俺は思わず聞いてしまった。
「石像か。『魔力回路』って何なんだよ?あいつは俺に教えてくれなかった。教えてくれ!」
「僕も教えたいけど奴らに口止めされてるからダメ。でも一つだけ言える。僕は奴らに5年前に見出された。ま、僕はもともと才能があったから君みたいに努力なんてしてないけどね」
俺はその言葉に少し怒りを覚えた。
「……努力して何が悪いんだ」
「あー怒らせたらごめんね。でもこれが現実。才能は努力に勝る。これが世間の一般常識。なんで君みたいなのに『魔力回路』をあげたのかな?奴らは。もっと才能のある奴にあげればいいと思うのにね。あ、そろそろ時間だ。じゃあね」
「ちょ、ちょっと待ちあがれ!」
そういって仮面を被った長身の男性は上に飛んだ。俺は上を見上げたが目に映ったのは綺麗な星々が輝く満天の星空だけだった。
「飛び上がるときに音がしなかった。普通は音がするのに。あれが才能のある人物なのか?」
恐らくだが、仮面の男性は風魔法を使って自分の体を上に押し上げた後、高速でどこかに去ったのだろう。しかしそんなことができるのか?でも、『魔力回路』を持ってるらしいし。そんなに凄いのか?『魔力回路』ってやつは。
「考えても無駄か。でも石像は俺に鍛錬を怠るなって言ってた。やっぱり努力することに意味があるに違いない」
そんな事をいっていると、俺はふと思い出す。
父さんと母さんは俺が壁にぶち当たったときいつも言ってくれた。
『努力しても報われないこともある。当然報われたいとみんな思ってる。でもね『報われる』っていう結果も大事だけど、『努力』っていう過程も大事だと思う』と。
「やっぱり努力だ。俺には努力しかない」
そう言って俺は気持ちを固めたのだった。
その後、魔法の練習は街中では出来ないので、せめて魔力を体の中で動かす練習だけした。
「よしっ、寝るか」
◇
翌日、ついに入学試験の日がやってきた。
俺達3人は朝食をお腹いっぱい食べた後、宿を出て王都の入学試験会場に向かった。試験会場の場所は昨日の散策で確認しており迷わず到着することができた。
ちなみに受験会場は王都にここ以外にもたくさんある。受験人数は余裕で万を超えるからね。
王都はどれも規模が大きく、試験会場もその例に漏れなかった。
俺達3人は受付にいき事前にもらっていた受験票を見せる。
「ノルン=ヘルリッヒ君、ザック=バーロン君、セレーネ=マリスカルさん、受験資格を確認いたしましたのでどうぞ中へお進みください」
受付の人にそう言われた俺達は受験会場の中へ入っていった。
受験会場の中に入ると人がたくさんいた。ホールのような感じで奥の方にステージのようなものがあり、その前に机と椅子が階段上に並べられている感じだ。俺達は受験票に書いてあった番号を確認して、別々の席に座った。まずは筆記科目だからね。
数十分後、試験監督らしき人が会場のステージに現れた。
「受験生諸君!今から筆記科目を行う!」
そう言った途端、俺達の目の前の机に試験問題が飛んできてセットされた。受験生たちはこの光景を見てどよめいた。
どよめきを遮るように試験監督が声を張り上げる。
「それでは試験を始める!はじめ!」
そうして俺達受験生は気持ちを切り替え、試験問題に挑んだ。
およそ1時間後、無事に俺達受験生は筆記試験を終えた。
席が離れていたザックとセレーネが俺のところへ来て話しかけてきた。
「ノルン!どうだった?」
「出来たの?」
「まあ、悩む所はほとんどなかったよ。基礎知識の確認程度の問題だからね。問題は実技科目なんだ……。」
「そうか!実技科目頑張れよ!」
「私も出来たわ!実技試験が本番だからね!気合入れていくわよ!」
「そ、そうだね」
俺は自信のない実技科目に向けて筆記科目の試験会場を出て、隣の実技科目の会場に重い足を運んだ。
実技科目の試験場は筆記科目の試験会場よりも大きさは倍以上で広かった。床は石でできており壁は木でできているがどうやら『魔法障壁』がそれを覆っている。
魔法障壁とは物理攻撃、魔法攻撃を軽減する魔法のことだ。ほとんどは重要な建物につけられる魔法で、対人格闘などにも使用される。
実技試験会場なので、魔法を撃つ的が設置されていた。剣の振りの威力を測定する物、それを見る試験官もいた。
「入ってきたものから並べ!」
試験官の声が会場に響き渡る。それを聞いた受験生たちは試験官が示した列に並んでいく。俺達も列に並んで行った。
まずは剣術だ。
数十分後、俺の順番がきた。
「君の名前は?」
「受験番号70524、ノルン=ヘルリッヒです!」
「前にある振り振り測定器に剣を振ってくれ。剣はこれを使いなさい」
そう真面目に言った後、試験官は俺に剣を渡してきた。
昨日の夜は色々あったけど剣の振りは確認できた。自信を持て俺。
そうして測定器に向かって剣を振る。
「ハアッ!」
剣圧測定器は0から100までの101段階で数字を叩き出す。
俺が叩き出した数字は73だった。
直後、後ろの待っている受験生の群衆からどよめきが起きる。
「73?結構良い数字だよな?」
「Bランク以上は確定だな。実技の現時点でだが」
「何あの白色の髪の子!カッコいい!」
と若干試験と関係のない声も紛れているが気にしない。
まあ、カッコいいと言われたらそりゃ嬉しいけど。
その後ザックは69、セレーネは68だった。
「よっしっ!1ポイント勝ったぜ!」
「ぐぬぬぬぬ、今回だけよ!魔法では絶対勝つんだから!」
そうして俺達はは剣術部門の実技試験を終え、魔法部門の実技試験の列に並ぶ。
ザックとセレーネにおいては得意分野だけど、俺は魔法が苦手とかじゃなくて使えないんだよな。『魔力回路』頼みでぶっつけ本番だ。
「ノルン、お前、魔法使えるようになったのか?」
「あ、たしかにそうね、ねえ?どうなの?」
「じ、実はさ、ちょっとだけ使えるようになったんだよね」
嘘だ。
それを聞いた2人は俺を称えた。
「鍛錬してた成果がやっと実ったんだな!」
「やっぱりノルンは努力の天才ね!」
「あ、ありがとう」
そんな会話をしていると俺の順番がきた。
試験官は俺に言った。
「前にある的に魔法を当ててくれ。属性は何でもいい」
そう言われて俺は本に書いてあった火魔法の使い方を思い出す。
魔力を手の先端に集め、『火よ』といえば、『火球』が顕現し飛んでいく。そうだ、そのイメージ。
そうして俺はぶっつけ本番で行った。
魔力を手の先端に集めるイメージをすると身体中の魔力がものすごい勢いで手に集中していることがわかる。これが『魔力回路』の力?
それを見ていた試験官が驚愕する。
「な、なんて魔力量なんだ!?」
後ろにいるザックとセレーネ、その他受験生も同じく。
そうして俺は声を張り上げて言った。
『火よ!』
そうして顕現したのは握り拳程度の火球だった。的にゆっくりと飛んでいき『ポスッ』という音がして消えた。
どうやら魔力変換効率が悪かったらしい。そりゃぶっつけ本番だもんね。でも、初めて魔法を使えたことがすごく嬉しい。
魔力変換効率とは名称の通り魔力を火、水などの属性に変化させる効率のことだ。俺の場合、変換効率が悪すぎてそのまま魔力が体外に放出されてしまったということだ。
「な、なんだ。びっくりさせないでくれよ」
試験監督はそう言って俺のことなど目もくれずに次の受験生であるザックを呼んだ。
◇
数十分後、ザックとセレーネも試験が終わり、俺達は無事試験の全行程が終了し、宿に帰っていこうとしていた。後残っているのは、3日後の合格発表を待つばかりとなった。
ザックとセレーネが俺に向かっていってきた。
「おい、ノルン!お前あの魔法何なんだよ~。期待して損しちまったじゃねえか」
「でも、魔力量は凄まじかったわ。あんなの見たことがない」
そんな言葉に俺は頭をかきながら答えた。
「はははっ、でも魔法を使えてよかったよ」
「はっ!そうだな。一歩前進ってやつだな」
「いいえ、違うわザック。ノルンの場合、日進月歩よ!」
そうして2人は俺を励ましてくれようとしていた。
でも内心思ってしまう。
筆記試験は出来た。実技の剣術部門も上々の成果を残せた。でも魔法があれじゃね。どんなに頑張ってもCランクの学校が限界。
「まあ、試験も終わったとこだし、昨日みたいに昼ご飯を食べに散策しよっか?」
「賛成だ!」
「賛成よ!」
そうして俺達は歩みを進めようとした途端、後ろから声がかかる。
「す、すみません!ノルン=ヘルリッヒ君ですよね?昼食は私が奢りますからついてきて貰えませんか?お連れの方も一緒で構いませんから!!」
それを聞いた俺達は振り向き、顔を見合わせた後うなづく。
「「「構いません!!!奢ってください!!!」」」
「今の子供達は遠慮というものがないのでしょうか?」
お金はなるべく使いたくなかったから、すごくいい提案だった。
「それではついてきて下さい」
そうして俺達3人は女性の後についていった。
◇
時は少し遡り、ノルンが魔法部門の実技試験を受けている時、会場の影に隠れて試験を見守る男がいた。
「なっ!彼!彼の名前はなんなんだ!?教えてくれ!」
後ろに控えている秘書が答える。
「少々お待ちください」
そう言って近くの試験官に彼と呼ばれた者の名前を聞きにいった。
そうして秘書が戻ってくる。
「彼の名前はノルン=ヘルリッヒ。魔法は火魔法を使っていましたが普通でしたよ?」
「いや、そうじゃない。そのなんだ、ノルン君だったかね?」
「はい、ノルン=ヘルリッヒという名です。学院長」
「ノルン君の魔力量は今まで見たことがない。私が見てきた色んな人物よりも多いだろう。過去最大級だ」
「まさか、貴方様にそれほど言わせる人物とは」
「ああ、ぜひ彼を指導したい。私が指導すれば彼は間違いなく伸びる!」
「なっ!?それはなりません!試験は公平に行わなければ!」
男は秘書に向けて手を前に出して人差し指を左右に振る。
「違う違う。確か、学院長が才能のある人物を見出して学院に入れることってできたよね?」
「ああ、推薦制度でしたか。確か5年前に一人だけ受かっていたような」
「うん、それだよそれ。だからノルン君をその制度でうちの学校に入学させたい」
「……分かりました。近日中に彼とコンタクトを取りたいと思います」
「だめだめ。そんなんじゃ彼が他の学院に取られるかもしれない。しかも試験運営委員会にこの件を言わないといけないしね。今日中に行ってほしい。いや、行ってくれるね?」
有無を言わさぬその男の顔に秘書はうなづくしかなかった。
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